第六章
希望
第1話
深い泉の底からゆっくり浮上するように、直人は静かに目を覚ました。
自分の口元を、酸素マスクが覆っているのが分かる。せっかく目を覚ましたというのに、身体が鉛のように重いし、視界もぼんやりとしていた。
ああ、きっとまた意識不明って奴になってたんだな…。
自分が寝ているベッドの側に人の気配を感じて、直人はそろそろと首だけを動かした。その人物は直人が起きた事にやっと気付いたようで、慌ててベッドの中に腕を突っ込んで、直人の手を握り締めた。
「直人!良かった、気が付いたんだな…」
「今本、先生…」
いつのまにか下の名前で呼ぶようになった担任、今本の泣き出しそう顔を見て、直人はふっと笑う。今本は心外そうに少し眉を寄せた。
「笑ってる場合か。お前、二日も意識がなかったんだぞ」
「うん、分かってる。もうすぐかもしれないね」
「直人…?」
「ごめん、先生。僕、卒業式には出れないかもしれない…」
せめて、それまでくらいは身体がもっていてほしかったが、どうも無理なようだと直人は悟っていた。自分の身体なんだから、よく分かる。
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