第一章

(1)[1~13P]

第1話

開けっぱなしの窓の向こうから風が吹き込んできたような気がして、僕はふと空を見上げてみた。


 朝の天気予報では一日中晴れだと言っていた。降水確率は、確か十パーセントだったと思う。それなのに空はどんよりと黒い雲に覆われていて、少し生暖かい空気まで感じる。降ってくるだろうと思った。


 僕は肩越しにちらりと振り返り、二十畳くらいはあるだろう座敷の風景を見てみた。朝から弔問に訪れてきてくれた人々の数はだんだんと疎らになってきて、三十分ほど前に来てくれた主婦達も「そろそろ帰りましょうか」などと言い合い、ゆっくりと立ち上がっていく。次に腕時計の文字盤を見てみれば、十一時をとっくに過ぎていた。


 長く息を吐いて、僕は窓から離れた。玄関を出ていこうとしている主婦達に近付き頭を下げると、その中の一人が「お気を確かにね」と小声で言ったのが聞こえた。


 弔問客が誰もいなくなったのを確認してから、僕は再び窓の側に戻って腰を下ろした。


 ざあっという風の音と共に、庭の木々の葉が騒がしく揺れる。枯れかけたものが力なく枝から離れ、ひらひらと頼りない舞を見せながら土に落ちてしまった。あっけない、そう思った。人の命が終わった後もこんなものなのか、そうも思った。

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