第1章 プロローグ
第1話
第1章【プロローグ】
部屋に煌々と灯りが点る。
風情ある日本家屋、その二階にあるこの部屋に備わるベランダの軒先をさっきから雨が叩く音がしている。
夕方になったばかりというのに暗く翳る室内には、冬場に似つかわしくない湿り気を帯びた空気が漂っていた。
窓には部屋の景色が浮かび上がり、それが静寂を際立たせ、言い知れない閉塞感を感じさせる。
あらゆる物に湿度を感じて、重苦しさから逃れるように、俺は横たわっていたベッドから体を起こした。
室内を見渡せば、段ボール箱の山、山、山。
遠路はるばるシアトルからこの部屋へと運ばれてきたその箱達には、空のものもあれば中途半端に中身の出されたものもある。
しかし、大半は未開封で、それが余計に俺の気を重くさせた。
俺の名は、蘭堂司(らんどうつかさ)。19歳。
この部屋の住人であり、不本意ながら明らかに手に負えていない箱達の持ち主。
送付元であるアメリカのシアトルから先日帰国したばかりの帰国子女というやつだ。
夏にシアトルの高校を卒業し、この春からは日本の大学に通う事が決まっている。
言わずもがな帰国はそのためで、早く部屋を片付けなければならないというのに、時差ボケから回復した矢先のこの雨だから捗らない。
…というのは決して言い訳などではない、と誰にともなく心の中で告げ続けて早数時間。
いい加減に諦めて気持ちを切り替えようかと大きく吐息すると、不意に入口の扉が叩かれた。
「司君。いますか?」
木戸への控えめなノックの音のすぐ後、聞き知った女の子の声で呼びかけられる。
俺はベッドから降りて扉を開いた。
そこにいたのは、ボブスタイルの黒髪が日本人形のような女の子。
身長155cm程の彼女は20cm近い身長差の俺を見るなり髪同様の黒い瞳を細めた。
「良かった。いたんですね」
「菊乃。どうした?」
「お母さんから、司君のお部屋にある不用品を片付けてくるようにと言いつけられて来ました」
茶目っ気のある物言いで室内を覗く彼女の名は、雨坂菊乃(あまさかきくの)。
歳は一つ下で、今俺達がいるこの家の娘だ。
と言っても、俺の姉妹ではない。
実際俺は、この部屋を自室としていてもこの家の人間な訳ではなく、親同士が友人という縁で帰国と同時に間借りしただけ。
幼い頃から知っている彼女は、いわゆる幼馴染みである。
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