[施行間近]フリーランスが知らないと損する! フリーランス新法のはなし
師走トオル
第1話 まず知って欲しい誤解だらけのフリーランス新法
前段で触れたが、フリーランス新法を解説してバズっているツイート(ポスト)はたくさんあるが、文字数制限のためか、あるいはバズることを目的としてる部分があるためか、あまり正確に情報を伝えられていないものが散見される。
そこでまずフリーランス新法でよくみられる誤解について解説していきたい。
●よくある誤解1 フリーランス新法が効力を持つ時期
これは簡単な話だが、フリーランス新法は2024年11月1日に施行=実際に効力を持つ。
フリーランス新法が国会にて可決され、「公布」されたのが2023年春であり、それ以後度々話題になることがあったためか、すでにフリーランス新法の適用が始まってるかのように考えてる人を散見する。念のため注意して欲しい。
●よくある誤解2 フリーランス新法によって発注企業の禁止事項が増える?
同じくSNSで散見されるフリーランス新法に関する解説投稿で、次のようなものがある。
「フリーランス新法が施行されると、フリーランスに発注する際に~~することが禁止されます!」
後ほど詳しく解説するが、フリーランス新法は、発注事業者(※)がフリーランスに業務を委託する際に一定の義務と禁止事項を定めることで、フリーランスの環境を改善するものだ。
※:親事業者とかクライアントとか呼び名は色々あるが本稿では発注事業者に統一する。
つまり上記の解説投稿は決して誤りというわけではない。だが誤解がある。
フリーランス新法で定められている禁止事項は、すでに下請法や独占禁止法で禁止されているという点だ。
だからたとえば「まだフリーランス新法施行前だから禁止事項やっても罪に問われない!」ということにはなり得ない。
しかしたとえば下請法は、発注事業者の資本金が一千万超でなければならないといった制約があり、資本金一千万ちょうどのフリーランス仲介会社がとトラブルがあった場合、泣き寝入りせざるを得ない状況も多かった。
フリーランス新法は、これまでにあった法律――下請法等で保護しきれなかった幅広いフリーランスを保護するための法律、という面があることを是非覚えておくといいだろう。
なおここは大事なので是非覚えていただきたいが、フリーランス新法施行後は、
1,フリーランス新法
↓
2,下請法
↓
3,独占禁止法
といった順番で適用される。
繰り返しになるがフリーランス新法における禁止事項は、非常に重要だが長くなるので後述する。
●よくある誤解3 フリーランス新法施行後は、発注企業が禁止行為を行うと罰せられる?
やはりSNSで散見されるフリーランス新法に関する解説投稿で、次のようなものがある。
「フリーランス新法が施行される2024年11月以降、発注企業がフリーランスに~~の行為をすると罰せられます!」
間違ってはいない。
間違ってはいないのだが、そう簡単な話でもない。
フリーランス新法施行後、発注事業者が禁止行為をしでかして放置した場合、確かに罰則を課す条項はある。
だが思い出して欲しい。たとえば刑法には傷害罪があるが、ある人物AがBを傷つけたとして、Aはすぐ牢屋に入れられるだろうか?
実際には警察等への通報等があって、裁判所が判決をくださなければ牢屋に入ることはない。(留置所は牢屋では?とかそういう話ではないので念のため)
フリーランス新法も同様だ。
我々フリーランスが発注企業側の違法行為に遭遇したとして、「110番通報ないし被害届提出に等しい行動」を取らなければ何も事態は進展しない。
では我々にとっての110番通報とは何か、となるとこれが知られていない。
すなわち、公正取引委員会への「申告」である。
こう書くと少々とっつきにくいかもしれないが、公正取引委員会のホームページへ行けば申告のためのページがあるし、匿名でも申告可能なのでハードルは低い。
参考(というか直リン):https://www.jftc.go.jp/soudan/index.html
さらに、国の資料にはこうある。
• 行政機関は、その申出の内容に応じて、報告徴収・立入検査といった調査を行い、発注事業者に対して指導・助言のほか、勧告を行い、勧告に従わない場合には命令・公表をすることができます。命令違反には50万円以下の罰金があります。
ようするに、申告があって調査があって指導があって(中略)命令違反があったことが確認されてようやく50万円以下の罰金が発生する。刑事裁判の流れなどは誰もがある程度知ってるように、フリーランス新法もこういう流れがあることは知っておいても損はないだろう。
なお余談というか、これは公正取引委員会に何度も電話相談した個人的感触・個人的感想に過ぎないのだが、公正取引委員会はフリーランス新法の最初の獲物を欲しがってる、という気がしている。
実際、以前にも例があり、2010年代後半に公正取引委員会の諮問機関が「フリーランスは独占禁止法の保護対象である」という見解を示したことがあった。そしてその直後に元スマップメンバーの扱いに関して独占禁止法に基づきジャニーズ事務所に警告が出されたことがあった。フリーランス新法施行後、似たような事例が発生するのではないかと個人的に思ってる。
(誤解のないよう念のため付け加えておくと、これは我々フリーランスにとってはいい兆候である)
ただ、最後にもう一つ個人的経験・個人的見解として付け加えたいが、筆者は下請法違反に遭遇したことはあっても、公取委へ申告したことはない。
実際のところ「あなたのやってるそれ違法行為ですけど大丈夫です…?」と言うと九割方事態が解決したからだ。我々フリーランスにとって、法律とはどっちが正しいかを示す基準に過ぎず、非がある側が判明すればあとは交渉でなんとかするのもフリーランスの技量の内だろう。「公取委への申告が必要、最善手」と言うつもりはまったくない。(ただ、どうしようもなくなって結局裁判になったこともある)
●よくある誤解4 実は重要な期間の話 業務委託期間一か月と六か月の壁
これは非常に重要な話なので是非目を通して欲しい。
先ほども引用した、次のような投稿。
「フリーランス新法が施行されるとフリーランスに発注する際には~の行為が禁止にされます!」
ここにはもう一つ大きな誤導的表現がある。
業務委託の期間の問題だ。
詳しくは後述するが、フリーランス新法では発注事業者の禁止行為(第五条)と、育児介護等と業務の両立に対する配慮義務 (第13条)が定められている。
この第五条に基づく禁止行為は、ざっくり言うと「業務委託の期間が一か月以上」でないと適用されない。
また13条に基づく配慮義務は、業務委託の期間が六か月以上か未満かで妊娠・出産に対する配慮義務の有無が変わる。
ここでは詳細を解説しないのでまだなんのことか分からないと思うが、フリーランス新法には『業務委託期間による一か月の壁・六か月の壁』があることは覚えておいて損はないだろう。
なお業務委託の期間の始期と終期の考え方は、正確には次のように国が定めている。(読み飛ばしていいです)
・単一の業務委託の場合
業務委託に係る契約を締結した日から(具体的には、第3条に基づき明示する「業務委託をした日 」から)業務委託に係る契約が終了する日まで。
具体的には、
①第3条に基づき明示する「給付受領予定日」
②業務委託に係る契約の終了日
のうち最も遅い日
・単一の基本契約(※)を締結している場合
基本契約を締結した日から 基本契約が終了する日まで
(※)基本契約とは、業務委託に係る給付に関する基本的な事項についての契約です。名称は問わず、契約書の形式である必要はありません。
・契約の更新により継続して行う場合
最初の業務委託等の始期から 最後の業務委託等の終期まで
ちなみに公正取引委員会に直接確認したが、たとえばあなたが「25日でゲームシナリオ書いて」という案件を受けたとしよう。しかしあなたは締め切りをぶっちぎってしまって35日かかった。
この場合、業務委託期間は一か月以上ということになるだろうか?
答えはイエスである。もちろんケースバイケースの部分も大きいが、こういった考え方になるという点は覚えておくと役に立つこともあるだろう。
●よくある誤解5 違反しても罰金50万以下!? 罰則が軽すぎる!
「フリーランス新法の罰則は、たかが五十万円以下の罰金。そんなの企業にとってははした金だ! 100万の報酬支払いバックレて50万の罰金で済まされたらどうする!?」
このような意見がある。
ただ、少し前述したが、正確には罰金の前に勧告・公表・命令がある。
たとえばギャランティが「正しく支払われていない」というトラブルが公取委に申告されたとする。公取委が調査の末、その訴えが正しいと判断したとしよう。
すると、その後公取委はまず状況を是正するよう発注事業者に勧告を出す。
それでも従わなければ社名等の公表と命令があり、それでも従わなければ刑事罰が課される。
つまり大前提として、公正取引委員会の勧告があった時点で企業は違法性を認識せざるを得ず=自分の側が間違ってると認識することになる。。
まっとうな企業ならばその時点で勧告に従うだろう。状況是正の勧告に従う=ギャランティを正しく支払うということでもある。公取委の勧告を受けた発注事業者は、資金難といった要因を除けば、報酬支払いをバックレるのは難しい。
さらに公取委の勧告を受け、違法性を認識してるにもかかわらず無視すれば、次に待ってるのは社名公表と命令である。
あるいは勧告を無視するような発注事業者であれば、社名が公表されようと命令を受けようと無視し続けるかもしれない。(個人的な経験だがいわゆるワンマン経営の小さな会社ならあり得ると思ってる)
それでも社名公表や50万以下の罰金を伴う刑事罰など痛くもかゆくもないだろうか?
だが付随する被害はかなり多い。
もまず補助金の受給資格を失う場合が出てくる(トヨタや大手出版社とて補助金を受けている)。また社名公表および刑事罰により株価が下がった場合、株主から損害賠償を請求される可能性が出る。上場の条件にも刑事罰の有無は大きな影響が出る。
それでも50万以下の刑事罰など本当に痛くもかゆくもないだろうか?
個人手に言えるのは、公取委の勧告があって公表・命令があってなおも従わないような発注事業者はもうどうしようもないとは思う。
幸い、我々には仕事や仕事相手を選ぶ権利がある。公取委の命令を無視して刑事罰を受けてでも報酬支払いをバックレるような相手かどうかは事前に調べるようにしたい。
●よくある誤解6 取引してる企業がフリーランス新法に対応するか分からない!
「フリーランス新法が施行されて発注事業者に色々禁止行為や義務が課されるのは分かった。でも発注事業者が本当にフリーランス法に従ってくれるか分からない!」
別にいいんじゃないかと思ってる。
仮に筆者が取引してる出版社が、「フリーランス新法に特に対応するつもりはないです」と言ったとしよう。筆者は「そうですか」と流すだけだろう。
その後、お互いの取引が順調であればなんの問題ない。だがもし相手側の非による解決不能のトラブルが発生したら?
そのときは「さぁ、お前の罪を数えろ」となるだけだろう。
そもそも誤解を散見するが、フリーランス法を適用するかどうかを決めるのは発注事業者ではない。業務の内容から公正取引委員会が決めることだ。「ウチの会社には労働基準法ないから」と公言するのと同じぐらい無意味なことである。
ただこの交渉を可能にするには、フリーランス新法を熟知し、日頃から証拠を収集しておく必要がある。法律は「弱者の味方」ではなく、「知ってる者の武器」に過ぎない。フリーランス新法はあなたに新しい武器を一つ手渡すに過ぎない。
ただ一つ。取引してる企業がフリーランス新法についてどう考えようとかまわないと思ってるが、日ごろお世話になってる担当窓口の方には是非フリーランス新法を遵守して欲しいと思ってる。
公取委に確認したが、フリーランス新法は両罰規定だそうだ。
すなわち、窓口担当者と企業双方に罰則がくだる可能性があり得る。
もちろんまだ施行前なので可能性の問題だし、たとえば「ウチの会社はフリーランス新法の対応を行いません」という会社の方針に従っただけであれば酌量の余地はあるとは思うが……。
いずれにせよ企業はともかく、個人に刑事罰がくだされた場合、企業内で懲戒の対象になり得るだろう。どうか自分の身は守って欲しい。
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