第32話

通用口からファミレスに入る。

私はまるで泥棒みたいに足音を忍ばせていた。

何で?自分の行動に戸惑う。

そっと休憩室を覗くと奥のテーブルに座る背の高い後ろ姿に心臓が跳ね上がる。

どうしようドキドキする。普通に話しかける自信ないよ。


「そう言えば、しんも今日までだったな。」

あれ?もう一人誰かいる。和真くんと話してる声。


「はい。明日から高校始まりますから。」


「そっか、真も比名ちゃんも抜けると客が減っちゃうなぁ。」

少しドアを開くと相手の姿が見えた。

…このファミレスの社長さんだ。


「そこですか。寂しくなるとか言いませんか普通。」

なんか口調が砕けてないかな。一応敬語っぽいけど相手は社長さんだよ。


「何でヤロー相手に寂しいなんて言わなきゃなんねんだよ。」


「まったく。口調が現役の頃に戻ってますよ。」


「しゃ~ねぇだろ。

お前と二人んなると口調が変わっちまうんだから。」


「俺のせいにしないで下さいよ。」

和真くん笑ってる。なんか楽しそうだ。まるで仲のいい先輩と喋ってる感じ。


「…で。どうなんだよ。」


「何が、っすか?」


「惚けんなよ。比名ちゃんと上手く行ったのか。」

社長の言葉に耳を疑う。

え、何でそこで私。

社長って私の気持ち知ってるの?

いやいやそんな事有る訳ないじゃない。

気になるのは和真くんの返事で…。

ドアにぴったり張り付く私。

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