「誰がアタシが心未ちゃんを女の子として見てないって言ったの?

心未ちゃんは女の子よ?」



「ぇ……? あ、いやまぁ それはそうなんだけど——わ」


善の冷たい指先が私のそれに触れて、手を引いた。


「あっ ごめん」



「…。女の子でしょ? ほっそい腕。酒が入ってても簡単に組み敷ける」


ス、と善の眸の色の明度が落ちて、「何言って」と言葉が口端から零れる。



「そのワンピースはどうしたの?」




それ、今訊く?




「自分で買ったの?」




それも訊く?



まだ『女の子として見なかったことない』の言葉も上手く咀嚼できてないのに

流石に足も展開も速すぎるよ、狡いよ、善さん。



そう心の中の小さな私が言って、起点の利かない現実の私は描いてきた台本通りに、

当初の予定通りに「うう、ん」と、うをひとつ増やして返してしまった。

本当に、しまった。何やってんだ。



「似合わない」





「…………へ」




早速バチが当たってる。



目の前の、綺麗な顔の綺麗な眸は据わっていて、恐らく私の目はぐるぐると重いパソコンに頻繁に現れるアイツみたいに回っていることだろう。


善からそんな言葉を掛けられる日が来るなんて。


言われたことない。言われたことがなさすぎて、脳内処理はますます正常に行われていない。昔、この家の人間に灰皿で殴られるナズナを目撃したことがあった。あの衝撃に似ている。どちらかといえば、殴られた方の衝撃。


「ぅあ、で、でも、もらったもので…」


一瞬、今、嘘です自分のお金と足で買いに行きました善に女の子として意識してもらいたくて私が選びました、と白状してしまおうか過ったが、そんなことをしたら今日こそ私が灰皿に代わる、隣から私を覗いているビール瓶で殴られるのではないかという恐怖の想像が勝った。



そうだ…



あの時ナズナを殴ったのが



他の誰でもない、



善だからだ。




「脱いで」




「え?」



「脱いで」



聞こえなかったわけじゃない。けど。もう一度、律儀にしっかりと繰り返した善の指先が真っ直ぐ私の肩紐を引っ掛けて、身体が小さく跳ねた。



「ぜ、ん……」



じわりじわりと這うような熱が、触れられた肩から全身へと、毒のように回る。


その毒の中に、善は、私一人程度の服を脱がす事なんて大差ないのだと触れ回るものがある。


今まで何人もの女の子の服を脱がしてきたのか知らないが、私にはそんな経験はこれっぽっちもない。



「アタシが脱がすんじゃなくて、心未ちゃんが自分で脱いで。ここで」



何で、どうしてそんなこと言うんだ。



何でと問えば「似合わないから」とそれも、繰り返されて、胸が痛い。


善の事を考えて選んだ服だ。



「脱げないなら仕方ないわね。手伝い、いる?」



正座した膝の上で作った拳を見つめ、言葉に詰まる。



「…っ」




「……、嘘よ」




一言、聞こえてきて顔を上げる。善は何ともいえない笑みを浮かべて「うーそ。冗談」と私の強張った頬を撫でた。



「ごめんね」




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