第7話
どうして。
「…男嫌いが仕事の足枷になっているのは本当。実際働いてて自分でも面倒だとは思うし、それが明らかに原因の煩わしさも働きにくさも感じる。なかったらもっと働きやすいのにって、頭では解る。
それと、善への気持ち…今までほぼ親代わりに面倒みてくれた善にできる一番の恩返しだと思ったのが、同じタイミングだったから」
「仕事の面で心未が克服したいのはわかった。
でも、善くんは——…」
面倒、なんて。
思った事。
あるのかな。
少なくとも、同じように“面倒”みてくれた善くんを見てきて、心未に対して今の今までそう感じる事はなかった。
「だって善に聞いたら絶対そんなの『全然?』とか言いそうじゃん。だから、
聞きたくない」
そう俯いた心未が。
善くんには見せられない心未なのだと、
本人から言われるまで気付きもしなかった私でさえわかった。
もうこれは、どうするのが正しいとか、そういう話じゃないように思えた。
「わかった。
私も心未がとか善くんの本心がとか、考えるのやめる。
心未のやりたい事をただ応援する!
あと、これね。ちゃんと通るよ。仕事に支障を来してるんだもん。通らなくても私が職権濫用するよ!!」
「今 さっきの男こっち見たよ」
「やべ」
「ありがと、桐」
心未はそう言って笑って、私は
心未が男嫌いを克服したいなら応援したいし、別に克服しなくたって笑っていてくれるなら良くて。
それで心未は今確かに笑っているけど、それを理由に善くんと距離を置こうとしているのは本当に二人にとって良い事なのか、良い事じゃない気がしても心未がそうしたいならやっぱり応援すべきなのか、わからなくなっていた。
「きり」
「ぐぇ」
心未の依頼書を手に席に戻った私は途中だった仕事は手につかないまま、頭の中で頭を抱えていた。
そこに、頭上から加減された体重がのしかかる。
「この良い匂いは知…花山院さんデスネ」
「鼻の利く愛犬だなァ」
よしよしと髪をボサボサにされ始めたがそれどころではない私は黙ってボサボサにされた。
「無視? 上等」
流石の花山院——
「んん」
一つ咳払いをし男嫌い克服の件について考え続ける。
私が女である限り男の人に協力してもらわなきゃならない。
まずちら、と前を見る。今は空席の一つ後輩・
次、その隣の同期・ぎっちゃんの席。ぎっちゃんは〜どうだろう。こういう事は彼女がいない男の人の方がいい気がするから、だめかな。
「おい」
「ぅわ」
突然顔面偏差値キャパオーバーが目の前に現れて驚く。
「慣れろよ」
顔面偏差値キャパオーバーが苛ついたように眉を顰め、平々凡々の私は知愛くん…は善くんの友だちだしな〜と顔を顰めた。
「…あ? 何か知らねぇけど今自分の男使えるか考えた?」
「声に出てました!?」
「……」
眉の皺はますます深まる。
慌てた視界の端に次の候補者・百目鬼さんが現れ再び考えに耽った結果「いや、百目鬼さんじゃ上過ぎるな。打ち解けやすそうではあるけど上過ぎる」と口端から零れた。
「前坂ー全部零れてるぞ」
知愛くんに「そこ上過ぎる俺の席」と声を掛けた百目鬼さん。「フリーアドレス」と私から視線を逸らさない怖い知愛くんに一蹴されている。
「それは花山院が勝手に決めた事な。おまえの席逆隣なだけだろ移動しろ」
「あ、居た どーめきさ〜ん。俺のペン持ってってません?」
「!」
そこで向かいから聞こえてきた忘れていた声に耳が動く。それを見逃すわけがない知愛くんが短く「桐」と呼んだけど既に私の頭の中はいつか善くんに『知らない人』と説明された天野さんに白羽の矢を立てていた。
「何、前坂ちゃん」
立ち上がった私を見つけてあまく小首を傾げる天野さん。
「あの、お願いが—」と言い掛けるとこちら側に回ってきてくれて、ずっと握りしめていた依頼書を覗き込みざっと概要を理解した様子。
「あ〜これ、善のあれだ?」
やはり、善くんと天野さんは知り合いなのか?
分からない私を通り越して何故か一人座ったままの知愛くんに上げた口角で訊いている。
「……」
知愛くんはじっと私を見たまま黙った。
「いーよ♡ 前坂ちゃんのお願いだし」
その応えに、知愛くんは私に溜息を吐いた。
「おまえ、あんまあれに手出すな。
拗らせた人間ほどマズいもんはねーよ」
「知愛くんが言うと説得力あるね」
依頼書を手にした天野さんがスーツのポケットに片手を突っ込んで笑うと、知愛くんはやっと天野さんを見上げた。
「
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