未だ恋をしらないアマガミ天使ちゃんがヒトの子のガールズ&ボーイズたちに恋の甘味をおしえます……エグ味はあとで……フウー

十夢

第1話 複雑恋愛関係

○複雑恋愛関係


 ノノ瀬ヒカルは中学1年生になったばかりだった。先月まで小学生だった女の子はまだ恋を知らない。これまで好きになった男の子はみな画面の向こうで笑うアイドルたちだった。それでもまわりの友達の中からチラホラと男子生徒との交際が話題になるにつれ、ウブだったヒカルにも異性への興味が湧いて来たところだった。


「ヒカルー、おはようー」

「おはよー、モトキくん。今日は一人?」

「ああ、今日はサトシに置いていかれたんだ。アイツこの頃好きな奴が出来たみたいでさあ〜」

モトキは言う。

(へえ〜、サトシくんもそうなんだあ……)

ヒカルはすぐに身近だったはすのサトシにも恋の話が持ち上がることに戸惑った。

「ヒカルは?どうなんだ?好きな奴いるのかよ?」

モトキはこともなさそうな顔をして言う。

「えっ?……きゅ、急に言われても……考えたことなかったなあ……」

ヒカルは消え入りそうな語尾で言う。

「ふう〜ん、そうかあ……。お前、鈍そうだもんなあ」

モトキは頭の後ろで腕を組んで先を歩く。

(に、鈍いって……な、何よ……)

ヒカルは先を行くモトキに付いて歩いて行く。

「それは、そうと、宿題できた?」

「しゅ、宿題……?」

ヒカルはポカンとモトキの顔を見つめる。

「お前、その顔は?忘れてたなあ〜?」

「て、て言うか……、聞いてない……」

ヒカルは慌てて昨日の授業の様子を思い出す。


(え、えーと……?)

モトキは焦りを見せる表情で必死に思い出そうとするヒカルの顔を見て笑い出す。

「ぷはっ。お前、そんなに焦るなよ〜?」

「えっ?モ、モトキくん、揶揄ってたの?」

「揶揄ってねえよお〜、ただ、可笑しかっただけだろう〜?」

「お、可笑しいって……な、何が……?」

ヒカルはキョトンとしてモトキを見つめた。


「だって、お前、教科も何も聞かねえじゃんか?」

「えっ……?あ、あっ、そうか。そうだよね、えへへ」

「えへへ〜じゃねえよ、ったく。そそっかしいなあ〜、ヒカルは〜?」

「ごめ〜ん。で、それで……?しゅ、宿題は?」

「お前には教えてやらない」

「えーっ?」

ヒカルは困惑するような泣きそうな顔でモトキの腕を掴んだ。

「お前、さっきから、サトシのことばっか考えてただろう〜?」

「な、なんで?」

「そういう顔してたぞ?お前」

ヒカルは掴んでいた腕を離して俯く。

「サトシはエリカさん目当てでウチに来てたぞ〜」

「う、うん……」


エリカはモトキの姉の同級生だった。モトキの姉はエミリと言って、今年の春から高校生だった。エリカとエミリは共に女子校へと進んでいた。

「エミリさんと待ち合わせでしょう?」

「ああ、うん。俺の姉貴と待ち合わせして学校に行くんだけど……」

モトキは、朝の光景を思い出した。


「エリカさん、おはようございます」

「モトキくん、おはよう」

「あれ?姉ちゃん、まだ?ですか?」

「うん、ちょっと支度に手間取ってるみたいよ〜」

エリカは爽やかな笑みをこぼしつつ言う。

(ふんわ〜り……いい匂〜い)

モトキが悦に入っていると向かいの電柱の影に一人の男子生徒の姿を見る。

(またサトシの奴〜)

サトシはモトキの幼友達だった。登下校に使う通学路も同じ経路だったことから小学校の入学式以来の付き合いだった。

 サトシはモトキの視線に気づくと電柱の影からぬうっと姿を現した。

「おはようございます。エリカさん」

サトシはモトキを無視してエリカに声をかける。

「あら、おはよう。仲が良いのね?サトシくん。モトキくんと待ち合わせ?」

「はい、いつもモトキが寝坊するんで俺が起こしてやるんです」

「まあ、ステキ。偉いのねえ〜」

「それほどでも……」

(サトシの奴〜、まあ〜た、鼻の下を伸ばしてやがる……)

サトシはエリカに褒められたことで目尻が下がりっぱなしだった。

(ゲヘヘ、俺、朝からイケてる〜?だよねえ〜、ぐふぐふ)

サトシは朝から妄想を膨らませてズボンを上に手繰り上げた。

「こらあ〜、モトキ〜、アンタでしょ〜?ドライヤー持って行ったのわあ〜?」

玄関からエミリがひどい剣幕で捲し立てる。

(ド、ドライヤー?)

モトキは思い出して、あっと声を出した。

「やっべえ〜」

「アンタねえ〜、使ったら元の位置に戻すって約束でしょ〜?私もだけど、イツキ兄もお義姉さんも使うのよ〜?」

「お、お兄さん……?」

エリカがエミリの言葉に反応する。

「あっ、エリカ、おはよう」

エミリは忘れていた何かを思い出すようにエリカに言う。

「エ、エミリ……?お兄さん、まだいらっしゃるの?」

「ちょっと、エリカ〜?あなた、まあだ、諦めてないの〜?」

エミリはハア〜っとため息をついた。

「だ、だって〜」

エリカはモトキとエミリの兄で長兄のイツキに惚れていた。

「兄貴は婚約者がいるのよ〜?」

「わかってる……」

エリカは顔を赤らめて言う。

「それでもいいの、だって、まだ結婚していないんだし。隙があるかもしれないじゃない?」

「ない、ない」

エミリとモトキは声を揃えて言う。

(サトシは兄貴に片思い中のエリカさんが好きで……エリカさんは婚約者のあるイツキ兄が好きで……)

「はあっ」

モトキは大きなため息を漏らした。

「大体ねえ〜、モトキはドライヤーなんて何に使うのよ〜?その跳ねた髪を直したかったわけ〜?」

「うっせえなあ〜」

モトキはエミリが髪をクシャクシャにしようとする手を跳ね除ける。

「モトキの本命なんて、ヒカルちゃん一択でしょう〜?あの子があなたの髪型なんて気にすると思うの〜?」

「ない、ない」

サトシが首を横に振る。

「おい!姉貴〜、変なこと言うなよ〜」

モトキはサトシに聞かれたことに恥ずかしさを見せる。

「バッカねえ〜、アンタのその恋心なんてねえ〜、ヒカルちゃん以外、み〜んな知ってるわよ。ぜ〜んぶ筒抜けよ〜、気づいてないの?バア〜か」

エミリは弟に容赦無く言葉を投げつける。

「くうっ……」

(このプライバシーのまったくない感……クッソ〜、泣きたくなるぜい)


「おい、エミリ、まったくハシタない奴だなあ〜?」

イツキが玄関から姿を現す。

「だあって〜」

「だあって〜じゃないだろう?弟の繊細な恋心を踏み躙るなよ?可哀想だろう〜?」

「は〜い」

エミリはイツキには素直を見せた。

「あ、あの……お兄さん」

「やあ、エリカちゃん、おはよう。今日も可愛いねえ〜」

「か、可愛いい、で、ですか?」

エリカはパアッと顔を赤く染め上げた。

「ちょっと、イツキ兄〜?高校教師になったばかりで、女子高生に向かって可愛いはないんじゃないの〜?」

横からエミリが口を出して言う。

「そうですよ、イツキさん、断固反対ですよ!」

サトシがここぞとばかりに正論で責め始める。

「おおっと、サトシ、悪い悪い。お前もいたんだな?」

「俺、エリカさんを悪い虫たちから守るために毎朝見回りに来てるんです!その筆頭っすよ?イツキさん!」

「やれやれ、俺のどこが悪い虫なんだあ〜?」

(そう言うところだろ……兄貴は)

モトキは知らんぷりをする。

「ごめんなさい、イツキさん。遅くなってしまって……」

少し遅れてイツキの婚約者であるハルカが現れた。


ハルカは白いブラウスにパンパンに張ったボタンを窮屈そうに留めていた。

「も〜う、やらしい〜、ハルカさ〜ん、そのブラウス、反則ですよ〜、生徒として恥ずかしいで〜す」

エリカはハルカの服装に苦言を告げた。

「そ、そんな……エリカさん、この格好は恥ずかしいですか?」

「恥ずかしいわよ、先生〜?そんな胸元で校内を歩かれたら、目のやり場に困りますよ〜。教師としての自覚が足りませ〜ん」

「ご、ごめんなさい……エリカさん。生徒に教えて貰うなんて……教員失格ですね」

ハルカは急いで上着を取りに家内へと引き返す。

「フンっ」

エリカはハルカの肉体美に嫉妬を見せる。

(な、何よ……あんなに強調しなくっても良いのに……)

エリカは自身のまだ未熟なボディラインに自信が持てないでいた。

「エリカ?私たちもそろそろ行かないと?」

「う、うん」

エミリはエリカを促すと学校へと歩き出した。サトシは途中までエリカを追いかけて後をついて行くのだった。

 モトキは一人で中学校へと歩いた。校舎が見え始める頃に他の通学路から出て来たヒカルを見つけた……ここで冒頭に戻る。


(朝から、スゲエもん見たなあ〜、俺……)

モトキは、自身を中心とした恋の複雑関係に頭を抱える。

「俺はヒカルが好きで……ヒカルはサトシが好きで……サトシはエリカさんが好きで……エリカさんは兄貴が好き……。兄貴は婚約者のハルカさんとラブラブ中で……。そうか……姉貴だけ、一応、フリーなのかなあ……」

モトキはゴニョゴニョと口元で呟き続けた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る