第20話

「ええっと、なんだろうね、菖蒲ヶ原さん」

「菖蒲ヶ原雪子ですけど、なにか」

 雪風東高校の全校生徒が、学年とクラスごとにグランドへ整列していた。これより競歩遠足の開始となる。朝礼台の校長から気合の入った励ましのお言葉があり、そのあとは担当の体育教師から注意事項の説明があった。

「いちおう、タオルとかペットボトルとかの持ち物は認められているけど、お鍋はちょっと違うかなあ」

「いいえ、これはヤカンですけど」

 二学年特進クラス担任の女性教師である結城は、整列している女子生徒の一人が奇妙な物を持っていることに気づき、小声で話しかけていた。

「ヤカンって、菖蒲ヶ原さんは、それで水でも飲むのかな」

「水も飲めますし、携帯コンロがあればお水を沸かしてお茶も淹れられます。プロのサバイバーは、インスタントラーメンなどの非常食を食べたりもします」

「そ、そうなの」

 ヤカンに箸をつっ込んで麵をすすり、ヤカン口を咥えてスープを飲んでいる雪子の動画を心に思い浮かべて、結城教諭は眉間に皺を寄せていた。

「いま、私がヤカンから直接ラーメンを食べている姿を想像していませんでしたか、結城先生」

「えっ、してないしてない。そんなこと思うわけないじゃないの。菖蒲ヶ原さんが、そんなハシタナイことするわけがないって」

 この生徒はテレパシーでもあるのではないかと、顔を引きつらせながらシラを切っていた。

「今日はほら、競歩遠足でしょう。走っちゃったりもするから、そのう、なんていうか、邪魔になるのではないかと、先生は思うのね」

 結城教諭はなかなかの読書家であり、菖蒲ヶ原誠人のファンである。その娘の雪子には、ふだんから遠慮がちの接触となっていた。

「アルミ製の小さなヤカンなので、とくに邪魔になったりはしません。それに途中で暴漢に襲われたときは、護身用の武器ともなりますので」

 雪子はアルミのヤカンを握ってシュッシュとシャドーボクシングをするが、前に並んでいた女子の後頭部をぶっ叩いてしまう。パコーンと爽快な音が響き、当てられた女子が前につんのめった。結城教諭があわてて介抱する。

「あ、ごめんなさい。てか、やっぱりいい感じね」と、ヤカンの打撃力に確信を得ていた。


♪ ペーポッポポポポッポ、ポッポポッポポポポー ♪

♪ ペーポッポポポポッポ、ポッポポッポポポポー ♪

 

 突撃ラッパである。

 唐突に突撃ラッパが吹かれた。

 それを合図に、全校生徒が弾かれたように走り出した。

 雪風東高校名物、競歩遠足という名のマラソン大会の始まりである。学校を出発して円を描くように街を二十キロ走り、ふたたび学校へとゴールするのだ。季節は秋へと移っていたが、気温は二十度を超えていて、絶好の疾走日和となっていた。 

「あ、菖蒲ヶ原さん。ヤカンはおいていきなさいよ、ヤカンは」

 結城教諭の命令を背中で弾き飛ばしながら、雪子が走り出した。全校生徒が高密度の塊へと収斂しながら校門に殺到した。

「慎二、こっちよ」

 慎二を見つけた雪子が呼ぶが、人の波に押されて遠ざかってしまう。

「っもう、そっち行っちゃだめ」

「菖蒲ヶ原さん」

 生徒たちをかき分けて、雪子が向こうへ流されていく慎二の手をつかんだ。二人がお互いを引き寄せながら 離れてしまわないように力を込める。混雑にもみくちゃにされながらも並ぶことができたが、慎二のもう片方の手には赤川がくっ付いていた。

「あなたもいたのね、忘れていたわ」 

「オレを忘れるなんて、ひどいなあ」

 赤川がすり寄ってくるが、雪子が慎二の手を引いて、それとなくブロックしている。

「それより一組の女子に訊いたんだけど、今日は雄別夕子を見てないって言うんだ。そもそも最近は姿を見てないとか、そんな女子は知らないってのもあったし、けっこう謎だ」

「地味すぎる女は逆に手強いのよ。でも、今日は絶対にいるはずだわ」

「なぜ断言できる?その心は」

 慎二の問いに、雪子は首を九十度曲げて答える。

「ジミ~な女ほど、こういうイベントものに参加したい気持ちが強いの。ソースは孤高な私。ある意味、夕子と心根が共通している部分もあるから」

「それはわかるよ。孤独な俺は、ある意味菖蒲ヶ原さんと心根が共通してるかもな」

 繋いでいた手をギュッと握った。

「生意気なこと言うのね」

 サッと手を放すと、雪子が速力を上げた。男二人をドンドン引き離して、密集した集団から突出しようとする。

「あ、待って」

「オレも」

 慎二と赤川が追いかける。走りながら雪子は、「雄別夕子、雄別夕子」と大声で叫んでいた。

「そうか。名前を呼べば、本人だったら反射的に振り返るってことだ」

「いや、かえって面倒だ」

 なにごとかと、近くの生徒たちが振り返る。慎二が雪子に追いついた。

「菖蒲ヶ原さん、雄別さんが変身していたら見つけられないよ」

「なに言っちゃってるの。もう見つけたわ」

「え」

「ほら、あそこ。先頭の女子」

 例年は野球部か陸上部の男子なのだが、今日は女子が先頭を走っていた。

「後ろ姿だけじゃわからないだろう」

「わかるのよ、こうすれば」

 雄別夕子、雄別夕子と、雪子が大声を張り上げた。するとその女子は、後ろを振り返ることもなくスルスルと加速した。雄別夕子の名を呼ぶたびに、尻を蹴り上げられたように速度を増すのだ。

「アハハ、これはわかりやすいな。ある意味、逆説だ」

「そういうこと」

 雪子が、さらに速力を上げる。ほぼ全力疾走に近い状態だ 

「雄別夕子、話があるから待ちなさいよ。友達でしょう」

「おまえらは友だちなんかじゃない」

 雪子の右手にはヤカンがある。チラ見してそれを確認した夕子は止まる気配がない。赤川はひいきの女子たちに捕まり、ハーレムのような集団を形成していた。

 慎二はケイタイを片手にもって操作している。SNSで朧とやり取りをしていた。彼と幼女の位置をテキストで確認していると、すぐ後ろから喘ぎのような声が掛かった。

「朧、色っぽい息づかいをするなよ。勘違いするだろう」

「ふざけないでくださいよ。こっちは子供をおんぶして走ってるんです。そろそろ限界がきますって」

 校務員の背中には幼女が背負われている。教師たちに見つからないように、集団に紛れて走ってきたのだ。

「よくよく考えてみれば、僕が背負う必要性はないような気がしてきました」

「菖蒲ヶ原さんと俺は、雄別さんをつかまえるのに忙しいんだよ。がんばってくれ」

「早くつかまえてくださいよ。この子、見た目は可愛いのにけっこう重いんです」

「そんなことはないだろう。もとはオームなんだから」

「あっ」

 幼女が朧の背中を駆け上がってジャンプした。空中でパタパタといつもの羽ばたきをして、前を走っている男子の頭頂部に両足をのせた。

「ピーちゃん」と慎二が叫び、その小さな足をつかもうとするが、幼女は羽ばたいて、その前にいる女子の頭へ着地した。

「うわっ、なに」

 頭の上になにかが載っている。女子はその重みに耐えられず、前のめりになって崩れ落ちた。頭部が地面とほぼ平行となったところで、幼女が無事に着地して、そのままパタパタパタパタと羽ばたきながら走って行った。

「大輝、ゴールまで一緒に走ろうよ」

「赤川君とゆっくり行きたいな」

 女子に囲まれた赤川は遅れをとっていた。もう、雪子と慎二が見えなくなっている。

「悪い。今日は一番でゴールしたいんだ」

 女子たちを置き去りにして全力疾走する。一人追ってくる者がいたが、速さについていけずに途中であきらめてしまった。

 雪風東高校名物、秋の競歩遠足という名のマラソン大会は、三キロメートルを過ぎた時点で、一位と二位が女子であった。やや遅れて運動部の男子たちが続き、慎二は百メートルほど遅れて走っていた。

「話し合えばわかるでしょ。ちょっと顔を貸してもらいだけよ」

「あたしの地味顔より、自分の派手顔で満足すればいい、このドS女」

「私がドSなのは認めるけど、顔はあなたじゃないとダメなの」

 ヤカンの底をバシバシ叩いて雪子が迫ると、夕子は猛ダッシュで逃げた。

「パタパタパタパタ」

 幼女が羽ばたきながら走っている。小さな体を起用に動かして、密集した高校生たちを次々と追い抜いた。腕のパタパタと足の動きは連動しており、そのまま離陸してしまいそうな勢いだった。

「クソー」

 夕子と雪子、ついでに幼女にまで差をつけられた慎二が精いっぱいの馬力を出しているが、いまの順位をキープするのが精一杯だった。そこへ赤川がやってきた。女子を振り払うために力を使い果たし疲れていた。

「慎二、菖蒲ヶ原さんはどこだ、あいつはいたのか。てか、しんどい」

「二人とも先頭だよ。はるか先を行ってる。野球部より速いんだ」

「さすが菖蒲ヶ原さんだな。ドラムで鍛えているだけある。つか、しんどい」

「いや、ドラムは関係ないと思うけどな。俺もしんどい」

「先輩、ちょっと待ってくださいよ」

 朧が追いついた。体力には自信がない社会人は、二人以上に疲れている印象だ。

「朧、ちびっ子はどうした」

「ピーちゃんなら先にいったよ」

 具合の悪そうな後輩の代わりに慎二が答えた。

「幼女にまでおいていかれるって、オレたち、なさけなくないか」

「幼女というより鳥だけどもな」

 その鳥のような幼女が、パタパタ羽ばたきながら彼らの横を逆方向へ走りすぎた。

「あれはピーちゃん」

「慎二、あの女よ」

「え」

 幼女の後に二人の女子生徒が逆走していた。先頭は夕子であり、そのあとは雪子だ。すれ違いは一瞬だったが、慎二も即座に集団から抜け出して逆方向へ走り出した。赤川が朧をつかんで、彼に続いた。

「菖蒲ヶ原さん、なんで逆に走ってんだよ」

「そんなの知らないわよ。あいつに訊いて」

 先頭の集団は、ちょうど河川敷を走っていた。幼女と女子二人が逆走したかと思うと、男三人も彼女たちの後に続いた。そのうちの一人は生徒ではなく、学校職員である。

 その一団は斜面を駆け降りた。芝生を蹴って野球のグランドを土煙を立ち昇らせながら横断し、河原の草地に突っ込んだ。背丈ほどのある雑草を踏み散らかしながら進み、ホームレスの小屋の前で止まった。夕子と雪子がにらみ合っている。小屋から初老の男が出てきた。

「なんじゃ姉ちゃん、腹へってんのか。タマゴだったら余ってんぞ」

 ヤカンを持っている雪子を見て、貧しい女が腹を空かせているのではないかと、腹を空かせている人間を頻繁に見ているオッサンが思った。

「うちのタマゴは自然のエサだから、すんごい美味いんだぞ」

 鶏どころかオッサン本人も自然の食べ物をたらふく摂っていて、とても元気そうである。廃材を集めて作った鳥小屋へ行き、扉を開けて頭をつっ込んだ。

「パタパタパタパタ」

「うわあ、な、なんだ」

 鳥小屋から幼女がとび出してきた。あの特徴的な羽ばたきをして、飛んではいないが飛ぶマネをして走り回っている。その様子を、オッサンがぼう然と見ていた。

 いっぽう、雪子と夕子の対峙は続いていた。

「どこまでしつこいのよ。あたしのことは放っておいて。あたしは地味が好きなの」

「そうはイカのなんとかね」

「可愛い顔してクソオヤジみたいなこと言うな」

「さあ勝負よ。はーっ」

 雪子のヤカンが夕子の顔面を狙って突き出された。女子高生とは思えぬ見事な右ストレートだが、地味顔が素早く避けた。

「地味なくせしてやるじゃないの」 

「こう見えても、あたしは動画でニャンコ太極拳Ⅱ型をイメトレしてるんだから」

「奇遇ね、私はビリー隊長よ」

「にゃーっ」

 夕子が反撃する。

 にゃにゃにゃ、っと猫パンチが三連発で繰り出されるが、カンカンカンと乾いた金属音が響き、雪子がヤカンで弾き返した。間髪入れず両方の手から猫フックが放たれるが、やはり雪子のヤカンがすべてを防いだ。

「大きく声を出して、ワンモアタイム。ワン、ツー、スリー、フォォー」

 腰を落として両足を踏んばった雪子は、両手をつきだして小さな円を描く。さらに横を向いて片膝をつき、両手で膝をタッチする動作を繰り返して、最後にはドヤ顔でいつものキメの姿勢であった。

「グッジョブ」

 相手のエクササイズをたたえて、夕子が親指を立てた。

 鳥小屋から逃げ出した鶏が幼女の後を追って、さらにオッサンが追いかけていた。

「菖蒲ヶ原さん」

 そこへ慎二がやってきた。息を切らした赤川と朧が一緒である。

「おい、兄ちゃんたち。オイラの可愛い鳥をつかまえてくれや」

 オッサンは鶏のことを言っていたのだが、男子たちはパタパタ羽ばたいている幼女のことだと思った。

「ピーちゃんの誘拐はさせないぞ」

「鳥を守るぞ」

「幼女ですよ」

 オッサンより先に保護しようと男子たちが走る。しかし幼女がすばしっこくて捕まらない。鶏が朧の頭をつつき、赤川がオッサンに抱きつかれて、「くさい、なんかくさ」と呻いていた。

「これは、カオスだわ」

「ピュッ」

「あ」

 ぴゅっと口走って、夕子が逃げ出してしまった。混沌とした現場に気をとられていた雪子は後れをとってしまう。

「慎二、私の天使ちゃんと一緒についてきて。夕子を追うのよ」

「わかった。でもピーちゃんが捕まらないんだ」

「っもう」

 羽ばたいて走りまわる幼女は手ごわかった。捕獲に雪子も加わるが、捕まえようと手を伸ばすと右に左にとかわされてしまい、小屋前の開けた場所から草むらへ逃げられてしまった。

「慎二、左から行って。私は右から行くから」

「ОK、挟み撃ちだな」

「それを言うなら、挟みとりよ」

「鳥だけにな」

 それぞれが左右へ緩やかな弧を描くように走った。草むらは背丈ほどあって見通しがまったくないが、ガサガサと植物を揺らす気配は読めた。対象物へ向かって自分は的確なコースを進んでいると、二人は確信していた。直進する幼女と左から迫る雪子、右からは慎二が走っていて、三つ巴のコリジョンコースとなっていた。

「そーれ」

「よっしゃー」

 雪子と慎二が両手を開いて半円をつくり、それぞれが合わさることで輪をつくろうとしていた。だが空気を読んだ幼女が、ほんの少し加速してしまう。獲物を追い込んだはずだが空囲いとなり、その帰結として二人はしっかりと抱き合ってしまった。雪子は、持っていたヤカンを落としそうになる。

 離れたりはしなかった。ぴったりと密着したまま、お互いを見つめ合っている。北極圏での抱擁よりも露出度は抑えられていたが、気持ちのほうは丸裸であった。とくに、雪子のハートビートが治まらない。

「ああーっと、ごめんな」

 不測の事態になったことを謝る慎二であったが、かといって抱き寄せる力を弱めることはなかった。

「謝らないでよ。そんなにイヤな気分ではないから」

 二人の体は、秒速五ミリメートルずつ混じり合っていた。華奢だけどしっかりと温かい感触に、慎二の鼓動も大きくなる。

「もっと、ドSなことを言われると思った」

「ほんとうの私は、そんなに強くない」

 雪子の光彩がぼやけていた。彼女の瞳が思いのほか美しく、なんだか切ないと感じた。

「ほんとうの菖蒲ヶ原さんって、どんなの?」

「それは」

 雪子が静かになった。キリキリと鳴いていたバッタたちまで沈黙する。

「あなたが探し当てて」

「俺でいいのか」

「うん」

 会話は十分につくされた。淡く青臭い静寂の中で、慎二の顔が雪子の頬へと限りなく接近してゆく。

「エロいぞー」

「うわ」

「きゃっ」

 最高潮の雰囲気で抱き合う二人の隙間へ、幼女がとび込んできた。融合の糸が切られた男女が離れてしまう。

「くうう、なんでこのタイミングなんだよ」と慎二は悔しがるが、雪子はあんがいと微笑んでいた。

「そうね。私の天使ちゃんも来たことだし、雄別夕子を捕まえないと」

 行くよ、慎二、とハッパをかけて走り出そうとする。おあずけを食らい、なんともやりきれない顔で地団駄を踏みそうな男子は、ハッとして雪子を見た。

「ピーちゃんを元通りにしたら、朧との約束がある。それは、俺たちが・・・」

 二人が恋仲にはなれないのだと意気が消沈してしまう。

「ねえ、慎二。あなたはこの異常な状態を放っておいて、自分の欲望のままに生きるの」

 そう言って、雪子は小首を傾げる。私たちは小さな子を見捨ててまで成就する仲なのか、と問うていた。

「うん、そうだな。まずはピーちゃんを戻さないと」

 雪子の手前、カッコつけて良心を見せたのではない。それは慎二の本心だった。

「私の天使ちゃんを、もとのまっ白な天使にしなきゃ」

「結構うるさくて、エサ代のかかる天使だけれどもな」

「エロいぞー」と幼女の小さな手が天を突いた。微笑んだ慎二が抱き上げて、雪子と一緒にその場を離れる。

「雄別さん、どこへ行ったんだろう」

「決まってるじゃないの。ランナーの中よ」

「俺たちに追われているのに、のん気に競歩遠足を続けるかなあ」

「地味な女はしつこいんだから。行事に参加したら、最後までやりきるのがセオリー」 

「じゃあ、走ろう」

「そうね」

 二人と幼女が河川敷のコースに戻った。生徒たちに交じって走っていると、後ろから顔見知りが二人、息を切らしながら走ってきた。

「慎二先輩、その子は僕が預かりますので、先に行ってください」

「悪いな、朧。てか、すげえ鳥くさいぞ」

 校務員の髪の毛には、鶏の羽毛がたくさんくっ付いていた。慎二から幼女を受け取り、背中におぶった。

「慎二、慎二。早く捕まえろよ。いろいろと疲れるんだ」

「赤川、すげえオッサンくさいぞ」

 オッサンにさんざん抱きつかれた赤川からは、すえた中年男臭がした。彼を目ざとく見つけた数人の女子生徒が近づいてきたが、あまりのオッサン臭に顔をしかめてイヤイヤついてゆく。

「雄別夕子は先頭から三番面の集団にいるわ。テニス部の女子たちに交じっている」

 雪子はケイタイを見ていた。

「それ、スパイ衛星の中継かなんかか」

「学校がドローンを飛ばしていて、そのライブ動画がスマホで視られるようになっているのよ。まさか知らないの」

「知らなかった。ちょっとみせてくれ」

 複数のドローンによって、真上から鳥瞰するものや、高度を目線ほどに下げたものなど、いくつもの映像が配信されていた。 

「こうするとズームになるの」

 指でなぞると走っている集団が大きくなり、斜めからの映像では個人が簡単に特定できた。

「あっ、ごめん」

 二人は走りながら一つの画面を凝視しているので、ときどきお互いの体が触れてしまい、一度は胸の柔らかな箇所に肘が当たってしまった。慎二は焦るほど気にしていたが、そのことについて雪子は無視していた。

「ペースが落ちているから、もうすぐ追いつくわ」

「あれだけ動いていたからな。さすがに疲れているはずだ」

「いたわよ」

 十一時の方向、十二メートル先に夕子を発見した。さっそく加速モードに移ろうとする雪子の手首を誰かがつかんだ。

「ちょっと、なによ」

 見知らぬ男子だった。ハアハアと、荒い息を吐きながら必死の形相である。

「菖蒲ヶ原さん、おれは三年の斎藤健司っていうんだけど、大好きだ、付き合ってくれ」

「はあ?」

 マラソンの最中に突然の告白であったが、雪子は速力を緩めることなく走り続けている。

「私は、いま忙しいのだけど」

「いまだからこそ言えるんだ。息をするのにも大変なこの瞬間に、君に愛を捧げたい」

 少し後ろにいた慎二は、うまい殺し文句だと感心する。

「知らない先輩、さっさと往生してください。来世で会いましょう。さよなら」

 だが三年生の彼は、相手がドSであることを想定していなかった。取りつく島もなく撃沈され、失意のまま後方へとフェードアウトしていく。

「菖蒲ヶ原さん、グッジョブだよ」慎二が親指を立てた。

「ふん。あなたも男だったらパンチの一発でも食らわせてやりなさいよ」

 パンチを出すどころか、気の利いた告白だったと感心してしまう慎二であった。

「菖蒲ヶ原さん、ぼくは一年の特進クラスの新崎亮です」

 今度は一年生の男子が言い寄ってきた。まだあどけなさの残る美男子で、母性本能をくすぐるタイプだ。

「いつも見てました。好きです。付き合ってください。菖蒲ヶ原さんだったら、きっと母も納得すると思います」

「年下は興味ないし、マザコンは地下を走りなさい。坊や」

 マザコン男子も蹴飛ばされてしまう。遠ざかるショボくれた後輩に向かって、「アディオス」と慎二が言った。雪子がくすりと笑う。

「菖蒲ヶ原さんのために毎日鍛えてるんだ。この上腕二頭筋を見てくれ。付き合おう」

 筋肉質な男子が、走りながら力こぶしを見せつけて求愛した。

「タンパク質たっぷりの男は趣味じゃないわ。暑苦しいのよ」

 キレてるキレてると、周りのランナーにバカにされながら、その男子も退場した。

「新条君、新条君、わたしの話を聞いてよ」

「うわ、こんどは俺かよ」

 雪子だけではなく、慎二にも異性が接近してきた。

「ヤバい、心の準備が」

 初めてのことで、うれしいのか恥ずかしいのかちょっと邪魔なのか、心の動揺具合がデタラメとなっている。雪子は、あえて振り向かないが、心の耳はアフリカゾウなみに巨大化していた。

 話したことはないが、彼女は慎二の同級生で、しかも同じクラスだ。雪子と比べれば見劣りするが、それなりに整った顔立ちであった。

「じつは、わたしは新条君のことを」

「は、ハイィー」

 その瞬間が訪れると、極限まで背筋を伸ばした走りとなった。

「ウザイと思ってんのね。めっちゃウザイ。陰キャは目障りなんだから、どっか行ってよって感じ。それと赤川君に触らないでくれる。陰キャ菌がうつっちゃうでしょ。覗き魔痴漢菌も。ああ、あと赤川君の隣になったら席をかえてくれる。ねえ、千円貸してよ」

 告白どころか散々な言われようで、しかも金銭まで要求されてしまい、いたいけな男子は目を白黒させていた。

「ちょっとのど乾いたからジュース買ってき、ブゴッ」

 雪子が放り投げたヤカンが顔面を直撃し、あつかましい女子も洩れなく退場した。

「慎二っ、なにやってんのよ。ボケーッと走っているから、おかしな女につかまっちゃうんでしょ」

 走るスピードを少し遅くして、雪子が慎二と並んだ。彼女が不機嫌な雰囲気を出しているのは、意識してではない。 

「なんか知らんけど、ゴメン」

 慎二が素直に謝る。その腕を雪子が引っ張った。

「どこ行くんだよ、またコースを外れちゃったじゃないか」

「雄別夕子に訊いてよ。私だってどこいくかわからないのだから」

 夕子がコースを外れて繁華街へと走っていた。雪子と慎二は彼女を追っている。

「モールだな」

「あそこで、なにかやっているみたい」

 ショッピングモールにある憩いの広場にて、戦隊ヒーローショーが催されていた。小学生の課外授業なのか、たくさんのちびっ子たちが来ている。体育の座り方をして、ヒーローと悪党が繰り広げるアクションを行儀よく観ていた。

「雄別さんの姿が見えないけど」

「いなくなっちゃった。違う顔に変身されたらやっかいだわ」

「変身しても地味だから、そういう女の子を探せばいいんじゃないか」

「地味顔だけでは情報不足よ」

「それと、ちょいブス」

 慎二の軽口に雪子はのらない。腕を組んで周囲を見回していた。

「ねえ、あのねずみ色のヒーロー、なにか変じゃない」

「どこだ」

「後ろのほうよ」

 戦隊ヒーローたちが悪党と戦っているのだが、ねずみ色のヒーローがいて、ほとんど動いていなかった。被り物が古臭くて色あせている。捨てきれず倉庫の隅にあったものを引っぱり出して着たかのようだ。

「なんか、地味なヒーローだよな」

「怪しいわ」

「あっ。菖蒲ヶ原さん、なにを」

 雪子が動き出した。観客である子供たちの隙間をドカドカと進み、戦隊ショーが繰り広げられているステージへと上がった。

「ああーっと、ここで新たな敵の登場か。なんでしょう、いったい何者なんでしょう・・・、か。あれえ、どうなってるの」

 予期せぬ人物の出現に、ナレーションの声がうわずってしまう。戦隊ヒーローや悪党たちは演技を続けながらも、チラチラとしきりに見ていた。雪子はねずみ色の地味ヒーローの前までやってきた。

「あなた、その地味すぎるお面をとりなさいよ。素顔をみせなさい」

 他のヒーローたちや悪党には目もくれず、まっすぐ指をさして、ビシーッと言い放った。地味ねずみ色ヒーローは黙っている。

「おい、あんた、邪魔すんなよ。これからガキどもたちを盛り上がるとこなんだから」

 悪党のうち、アザラシ怪人が雪子に近づいてきて耳打ちした。アクションが止まり、シラケたムードになる。観客の子供たちがポカンとした表情で観ていた。

「にゃー」

 沈黙していたねずみ色ヒーローが叫んだ。というか、鳴いた。

「ニャンコ太極拳㊙奥義、連続ネコパンツ、にゃにゃにゃにゃにゃ」

 そして、熾烈なる猫パンチを繰り出してきた。雪子は寸前で身をかわしたが、そばにいたアザラシ怪人が犠牲になる。

「ふげっ、ほごっ、ぼごっ、ぼけっ、ぐへっ」

 連続パンチの猛打を浴びて、その海獣がひっくり返ってしまった。悪党怪人がやっつけられて、ちびっ子たちから歓声があがる。

「おいおい、シロウトがなにやってんだよ」

 脚本にないことで仲間が倒されてしまった。憤慨したムカデ怪人がやってきて、なぜか雪子につかみかかる。

「なにするのよ、私に触らないで」

「おれたちは生活がかかってんだよ。格好いいヒーローにやられてナンボなんだ。ド素人が目立ったら、悪人として、おまんまの食い上げなんだ。たのむよう」

 ムカデ怪人は、怒っているような諭すような懇願しているような、どうにもハッキリとしない態度である。

「ちょっと、離れてよね。気持ち悪いのだから」

 ムカデ怪人配下の雑魚キャラらもやってきて、雪子を取り囲んだ。戦隊ヒーローたちはダラダラと立って見ているだけだ。ねずみ色ヒーローは、大道具の影に入って目立たないようにしている。

「菖蒲ヶ原さんに、なにするんだ」

 雪子の危機にいてもたってもいられなくて、慎二が走ってきた。来る途中でちびっ子たちの頭を足で小突いてしまったが、彼らは気丈にも泣くことはなかった。

「こらっ、だから素人が来るんじゃない」

 毒キノコ怪人が慎二を排除すようとして胸ぐらをつかんだ。すると、ちびっ子たちからやんやのブーイングが飛んできた。一瞬躊躇したスキを雪子が突く。

「慎二に触るなっ」

「ふごっ」

 雪子の右ストレートが毒キノコ怪人の顔へ炸裂した。ただし着ぐるみ部分がクッションとなって、人体への医学的なダメージはなかった。転んで尻もちをついただけである。

「菖蒲ヶ原さん、やるなあ」

「当然でしょ。これでも温和で短気な空手三段の娘なのよ」

 シュッシュとシャドーボクシングを披露して、自信のほどを見せた。最前列のちびっ子が立ち上がって、雪子と同じ動作を始める。

 雑魚キャラの一人が突進してきた。今度は慎二が前に出て足払いをして倒した。

「慎二、やるじゃないの」

「知り合いにドSの女子がいるんだ。めっちゃいい女なんだけど、ある意味では危険すぎてさ」

「あら、そんな素晴らしい人がいるなら紹介してよ。友達申請しちゃうから」

 雑魚キャラ数人と幹部怪人が二人を取り囲んだ。雪子と慎二が背中を合わせる。悪党たちはじりじりと包囲を狭めていた。ちびっ子たちの悲鳴が甲高くなる。

「にゃにゃにゃにゃー」

 そこへ俄然と突っ込んできたのは、ねずみ色のヒーローだ。魚の怪物である魚原人(うおげんじん)へ猫パンチを食らわして、あっという間に押し倒してしまう。勢いがよかったために、雪子と慎二を囲んでいた輪が崩れて、高校生二人の核へねずみ色の粒子がくっ付いた。

 三人が背中を合わせて、三方向への警戒とする。

「あなた、雄別夕子ね」

 チラリと首を傾けて、雪子が言った。

「あたしは通りすがりの、ただのニャンコ拳の使い手さ」

「なんだか知らないけど、雄別さん、ひとまず手を組もう」

 慎二の申し出を、「にゃー」と鳴いて快諾した。   

「慎二、どうなってんだっ」

 赤川がやってきた。友人を発見するなり、すぐにステージへと上がり合流する。彼を慕う女子たちが十数人ついてきていたが、ちびっ子たちと一緒に桟敷席での観戦となった。

「慎二先輩、も、もう、限界です。僕は疲れ果てました」

 ほぼ同時に朧も上がった。いたいけな幼女を背負ったまま、汗だくになりながら息を切らしている。

「おまえらは平和を汚す悪の化身か」

 やっとヒーローたちが動き出した。観客がいるので、いかにもセリフを言っているという演技を見せた。

「俺たちはー」

 売りセリフに買いセリフで、慎二も気の利いたことを言おうとしていた。 

「ええーっと、そのう、なんちゅうか」

 だが、カッコ良い文句が浮かんでこない。方々から注目される中、なにか言わなければならないと、とにかく焦っていた。

「私たちは悪をくじき、弱きを助ける正義の高校生」

 横から助け舟を出してきたのは雪子だ。言葉だけではなく、なにやら恥ずかしい振りつけで、キメのポーズを披露する。 

「その名は雪風イーストレンジャーズ」

 雪子が言いきった。両手を腰に当ててやや斜に構えるスタイルはいつも通りだが、その後に片手をあげて観客のほうへ指さしたのが新しい。

「い、いーすとれんじゃあ、ず?」

 いかにもなネーミングに慎二は戸惑い、ちょっと恥ずかしくて照れくさかった。赤川や朧も同じ感想を持っているだろうと思っていたが、違った。     

「レンジャー夕子。にゃあ」ねずみ色の地味ヒーローが、招き猫スタイルで鳴いた。

「レンジャー大輝。女の子は大歓迎だよ」スマホを見せながら、女友達はウエルカムであることを示した。

「レンジャー朧、ちなみに学校の用務員さんだよう」朧は少しオドオドしていた。

「エロいぞー」校務員に背負われている幼女が拳を突き上げた。 

 雪子のノリに皆がつられている。慎二も、あわててそれらしいポーズをキメた。

「レンジャー慎二。ええーっと、とくにありません」

「やっちまえ」

 悪党どもが高校生たちに集ってきた。本物の暴力沙汰をするのではなく、あくまでも乱入してきた一般人を排除するということだが、場所が本番中のステージ上なので、それらしく演技しながらである。

「にゃー、にゃにゃにゃにゃあ」

 夕子のニャンコ太極拳が、小うるさく小ざかしかった。かといって、うざったらしくまとわりついてくる女子を公衆の面前で張り斃すわけにもいかず、魚原人は困惑していた。

「よーし、捕まえた。しっかり捕まえたから、お昼にピザでもたべない?」

 赤川は、雑魚戦闘員のアルバイト女子大生に抱きついていた。いちおう、身動きできないようにする措置であるが、観客の一部から激しいブーイングが起こった。

「神に代わって、ジャスティスレンジャーが成敗する。成敗してやるからな。ほんとに成敗だからな。あとで訴えたりするなよ」

 戦隊ヒーローの赤いやつが観客に向かってそう言って、手を回しながら雪子に迫った。ちびっ子たちからの声援がネガティブになって、かなり焦っている様子だ。

「ふん、なによ。雪風イーストレンジャーが、えんま様に代わって、おしおき、よ」

 ただでさえ美少女の雪子なのに、体のラインが丸わかりの運動着で、さらにセクシーなポーズでキメセリフを放った。思春期までには程遠い男の子たちがハートを撃ち抜かれ、異性に対しての初期微動を惹起せしめることになった。

「やっちまえ、イーストレンジャー」、「おねえちゃん、がんばってー」と雪子に対して声援が鳴りやまない。

「しねー、ジャステス死んじまえー」、「ジャスティス、大―きらい」と、いつもひいきにしているヒーローたちへは罵声を浴びせた。

 雪子は、空手三段の父親から受け継いだ空手演武を披露する。多分になんちゃって要素が強いのだが、胸や尻をプルンプルンと揺らせて、セクシーさを強調した。犬を散歩させていたオヤジ連中も、おもわず立ち止まって見ていた。観客が雪子のオーラに魅了されてしまい、主役の戦隊ヒーローの影が薄かった。

「ものども、そのJKを引きずり降ろせ」

 このままでは失業してしまうと、赤いヒーローがハッパをかけた。さっそく青や黄色が雪子につかみかかる。

「キャー、チカン、チカンー。おまわりさん、ここにカラフルなチカンがいますー」

 いきなりの悲鳴であった。ステージ上で雪子がジタバタと騒ぎだした。

「いや、おれたちはなにもしてないよ」

「ちょっと、さわっただけで」

 痴漢呼ばわりされたヒーローたちがオロオロしていた。そのスキをレンジャー雪子は見逃さなかった。

「雪子さーん、キーック」

 雪子の右足が勢いよく蹴り上がり、青色ヒーローの股間へとヒットした。

「ギョッ」っと唸って、そのまま崩れ落ちた。青い仮面から脂汗混じりの嗚咽が漏れた。

「うわああ、なんだこれ、おまえ悪魔か」

 仲間の惨状を見て、黄色が血相を変える。間髪入れずに、その悪魔が半回転して左足を放った。

「ひでぼっ」

 つま先が黄色の中心線の終着点で止まり、一瞬の制止のあと、静かに膝をついた。

「はっ」

 雪子が空中をもう一蹴りすると。ちびっ子たちから声援が沸き上がった。それらに応えて、空手JKが何度も投げキッスをする。

「にゃにゃにゃー」

「とりあえず、これからカラオケでも行こう」

「とにかく落ち着いて話し合おう」

「あのう、ヒーローの時給っていくら。校務員って安いんだよね。非正規だし」

 夕子と赤川、慎二と朧は、悪党と雑魚キャラ相手に奮闘していた。といっても殴る蹴るではなく、猫パンチの連打だったり女子大生に抱きついたり、話し合いや愚痴だったりである。

「き、きさま、よくも仲間の大切な部分を」

 赤ヒーローが怒っていた。両手で股間をガードしながら雪子と対峙していると、後ろから多数の猫パンチを食らう。

「にゃにゃにゃにゃあ、にゃにゃ」

「うわっ、な、なんだ、こいつ。ウザすぎるぞ」

 夕子にポコポコと叩かれまま後退していていた赤ヒーローがコケて、ステージから落ちてしまった。安全マットが敷いてあって怪我はなかったが、ジャスティスヒーローらしからぬ醜態である。してやったりのねずみ色ヒーローが、雪子とハイタッチした。

「地味なくせにやるじゃないの」

「これでも地味だというのか、にゃー」

 夕子が被り物をとった。顔があらわになると、観客たちが「うわー」とどよめいた。

「ねこだー」

「わあ、ニャンコだー」

「うちのタマだー」

 猫顔だった。猫っぽいメイクをしたのではない。人間の顔の輪郭に猫の面を貼り付けたようなリアリティーがあった。グロテスクではあるが、意外にも、ちびっ子たちが総立ちになって応援していた。

「ふふふ、どうよ、菖蒲ヶ原。目立つとはこういうことよ。ちなみにキャ〇ツのパクリではない」

「あなたねえ、猫に変身するのだったら、もうちょっと可愛らしくやりなさいよ。絶妙にキモくて、ありていにいって、ちょいブス」

「ちょいブスで悪かったわね。がんばって変身しても、やっぱりちょいブスになっちゃうのは仕方ないでしょ。でも、あんたより人気あるんだから」

 夕子は観客の熱い眼差しに満足し、ステージ奥から猛スピードで接近してくる者に気づいていなかった。

「天誅―っ」

「どひゃっ」

 跳び蹴りを背中に食らって、猫女がステージ下へぶっ飛ばされてしまった。 

「あなたは、誰」

 新たな敵の出現に、雪子がなんちゃって空手の構えをとった。

「ジャスティスレンジャー控え組・フォーティーセブン」

 戦隊ヒーローの控え組であった。赤色のユニフォームを着ていたが、お面はなく素顔を晒していた。見た感じからアルバイトの女子大生と思われる。

「ちょっとまって。フォーティーセブンってことは」

 ステージ裏から、ワラワラと戦隊ヒーロー控え組が沸いて出てきた。この催しのフィナーレは、四十七人の顔出しアルバイト女子大生たちによる、戦隊ヒーローテーマソングの合唱なのである。

「おおー、お姉さんたちが、めっちゃいっぱいだ」

 赤川がヘラヘラと四十七人のそばまでやってくるが、瞬く間にテージ下へと蹴散らされてしまった。

「菖蒲ヶ原さん、大丈夫か」

 慎二が雪子のもとへ駆け寄ってきた。数で威圧するヒーローたちから彼女を守ろうと、盾として前に出た。ステージ下で、ちびっ子たちにいじられている赤川への配慮はなかった。

「なんだか知らないけど、強キャラが四十七人も出てきたわ」

「菖蒲ヶ原さんに比べると、みんなモブキャラだよ」

「まあ、当然ね。それでもちょっと面倒なことになりそう」

「俺がついているから大丈夫だ。俺が絶対に守るから」

「慎二のくせに小癪だわ。キュン、ときたじゃないの」

 雪子が慎二の手を、後ろから奪い取るように握った。もちろん彼は拒絶しない。かえって強く握り返した。

 四十七人の未熟なヒーローたちが整列し始めた。雪子たちだけではなく、悪党や雑魚キャラたちがステージの隅へ追いやられてしまう。下では、落とされた者たちが眩しそうに見上げていた。

「なにが始まるの」

 雪子がそう言った途端、軽快な音楽が鳴り始めた。

「これは、ジャスティスレンジャーのテーマ曲だ」

 四十七人が一斉に動き出した。

 そして歌い出した。

 それぞれが、それぞれの振り付けと歌を一丸となって披露していた。一人一人の歌唱力は素人レベルであるが、数の力と雰囲気で押し切っていた。ノリの良い曲調なので、とにかく大音量であればそれらしく聞こえた。

「なんか、すごいぞ」

「でも下手くそ。しょせん、素人ね」

 大人数に慎二は幻惑されているが、雪子は本質を見抜いていた。ちびっ子たちの反応はマチマチであり、喜ぶ子もいればシラケた目の子もいた。

「菖蒲ヶ原さん、どこへ」

「本物をみせてあげるわ」 

 ステージを降りた雪子が実況している女のところへ行き、有無を言わさずマイクを奪い取った。さらにスマホを渡して、この曲をスピーカーでかけるように指示した。四十七人の女子大生たちによる歌謡が終わり、観客から拍手を受けていた。彼女たちの表情は満足そうである。

「そこの有象無象たち。どいて」

 雪子がセンターに立った。その居丈高なオーラに弾かれて、十把一絡げたちの半円が大きくなっていく。 

「菖蒲ヶ原さん、いつの間にマイクを」

 雪子の右手には奪ったマイクが握られていた。

「歌う気なのか」慎二が呟いた刹那、その曲が始まった。

「そうれ」

「うっ、この曲は」

「♪ げっき安げっき安、おなべのおこげで~、しろめし三杯~、げき安げき安、千円あれば豪華なディナー、子犬も喜ぶ焼肉ざんまい~、それは~、どこの~、激安だ~。ハマタ、ハマタ、激やーーーーす、ハマタ♪」

 激安スーパー{ハマタ}のテーマソングであった。

 雪子は熱唱していた。もともと音楽のセンスは抜群なので、歌わせてもプロに肉薄するほど上手かった。激安スーパーの陳腐なテーマソングでしかないのだが、聞きなれたそのメロディーは、心地良い響きとなって会場全体へしみわたっていた。皆の心の中に、恋人と、あるいは家族と一緒に安物買いを楽しんでいる光景が浮かんでいた。

 さらに雪子は、ダンスというアクションも加えていた。四十七人の女子大生たちも踊っていたが、それらと比して運動量と新鮮味が段違いであった。

「♪ やっすいー、やっすいー、大―、安―、売りー、今日~もハマタでー、サイコーさあー ♪」

 最後に、両手を腰に当てて斜に構えたいつものポーズで言い放つ。

「だけど、私はお高い女なの」

 このキメ言葉は観客ではなく、彼女を熱い視線で見つめている、ある男子高校生に向けられた。

 会場から歓声が沸き起こった。戦隊ヒーローや悪党、雑魚キャラが拍手で讃え、ステージ下では、ちびっ子たちが握手を求めて殺到している。

「ありがとう、ありがとう」

 ステージ上から、雪子は上機嫌で応えていた。

「なんか知らないけれど、オレは感動したよ。だから付き合わないか」

 ちびっ子にまぎれて赤川が手を出していたが、雪子はその人差し指を即座にへし曲げた。

「ギャー、折れたっ」

 イケメンが子供たちの底へと沈む。

「さすが、あたしのライバル菖蒲ヶ原雪子。いいものを見せてもらったわ」

 猫顔が手を差し出していた。顔が少しグロだなと思いつつ、雪子が握手しようとした。

「エロいぞー」

「あ、待って」

 幼女が、「パタパタパタパタ」とステージ中を走り回り、最後にはへりからジャンプした。朧がその両足をつかんだが遅かった。

「ぶごっ」

 そのまま飛行して、夕子の猫顔に激突してしまう。

{エロいぞー、エロいぞー}

「あ、ピーちゃんに戻った」

 白いオームが観客の上空をバタバタと飛び、赤川のおでこにひとしずくのフンを落としてから雪子の肩へ止まった。居心地がよいのか、気持ちよさそうに頬ずりをしている。

「私の天使ちゃんが元に戻っちゃった。ちょっと残念だけど、結果オーライね」

 ちびっ子たちだけではなく、いつの間にか集まっていた大人たちもステージへと上がり始めた。雑魚キャラには目もくれず、老いも若きも四十七人の女子大生たちにまとわりついた。そして一番人気の雪子へは、身動きできないほど集まっていた。

「ちょ、ちょと、ちびっ子たちで私が大変なんですけど。きゃ、だれかお尻さわった」

「菖蒲ヶ原さん、こっちだ」

 小さなセクハラ攻撃に戸惑う雪子の手を引っぱって、慎二がステージ裏まで連れてきた。そこは男女がなにかを囁き合うには絶好の狭小さであった。

「俺、あんまし友だちいないし、みんなから避けられているけど、そのう、なんていうか」

 ここで青少年の気持ちが昂ってしまう。騒々しさから隔絶された状況に、脳内麻薬がじゃぶじゃぶと分泌されてしまった。恋の撃鉄が唐突に引き起こされる。

「付き合おう、ていうか、付き合ってくれ。俺の彼女になってほしいんだ」

 雪子とピーちゃんが、告白者の顔をまじまじと見つめていた。言い切った慎二はえもいわれぬ爽快感を味わっている。成功率は七割以上だと、なぞの自信に支えられていた。

「イヤよ」

 だがしかし、現実の世界が無常を叩きつけてきた。

「え」

 慎二が固まる。

 良いタイミングで正確に的を射たと思っていたが、ただの暴発だったと気づき、落胆が計り知れない。鬼の速さで体が溶けてなくなりそうな男子高校生を、両手を腰にあてて斜に構えた女子高生が見下げている。

「雪風東高校名物・競歩遠足という名の強制マラソンはまだ終わっていないじゃないの。なに甘ったれたこと言っているのよ」

「え」 

「マラソンしながら、私を無理矢理にでも捕まえてみなさいって言っているの」

 雪子の真意が読み取れず、慎二は呆け顔だ。

「だって、そうしないと私から色気をだして付き合ってしまうことになってしまうじゃないの。新条慎二が菖蒲ヶ原雪子を恋愛的に強奪した、という形にしないと約束を破ることになるでしょう」

 雪子から付き合おうとしない、そして慎二に対して色気を出さない、というのが朧との取り決めであった。

「可哀そうな私は、しかたなくあなたに奪われてしまうの。そういうのって、慎二は好きでしょう」

 それが作戦なのかゲームであるのかわからないが、トライすべき事案であると彼は悟る。

「ドSの女に惚れたんだから、とうぜん嫌いじゃない。奪ってやるよ」

「がんばってね、少年」

 小悪魔的な笑みを浮かべた雪子が、さっと走り出した。ピーちゃんが飛び立ち、間髪入れずに慎二が後を追った。

「どうしたの、少年。そんなスローな調子では菖蒲ヶ原雪子を捕まえられないわよ」

「くっ」

 あれだけ走って歌って踊ったのに、雪子は元気いっぱいである。手足を振り回して追う慎二だが、どうにも追いつけない。これは奥の手を使うしかないと、姑息な手段を実行するのだった。

「菖蒲ヶ原さん、膝にカマキリがくっ付いてるよ」

「え、ほんと」

 雪子が止まった。

「やだあ、もう、なんなの。虫さんは苦手なんだけど」

 おっかなビックリな様子で膝のあたりを確認している。

「いまだっ」

 そのスキを待っていた慎二が、まさにカマキリみたいに両腕をひろげて抱きつこうとした。だが、雪子がひらりと身をかわした。目標を見失った捕食生物は、つんのめって電柱に頭をぶつけてしまう。

「いたたたた」

「ざ~んねんでした。そんな手に引っかかる雪子さんではないのよ、少年」

 慎二のたくらみは、ものの見事に見破られていた。雪子は腕を組んで立ち、ニヤニヤしている。

「菖蒲ヶ原さん、ひょっとしてプレコグを使ったとか」

「さあ、どうだか。慎二もサイキックを発動したらいいんじゃないの。ジャンプしたら、すぐに私を捕まえられるでしょう」

「俺のサイキックは無意識の衝動だから、自分の気持ちではどうにもならないよ」

「だったら、無意識の底から私を好きになりなさい」

「それは俺を鼓舞しているのか。それとも惚れているのか」

「この会話にデジャブを感じるわ」

 慎二が苦笑いをして、再び雪子が走り出した。もちろん、慎二が追いかける。

「こっちよ、こっち。男なら根性みせてみなさい」

「見せてやるよ、うおおー」

 二人の追いかけっこが果てしなかった。

 しかし走りっぱなしでは疲れてしまうので、ときどきカフェへ入店し、アイスコーヒーを飲みながらおしゃべりに夢中となったり、たい焼き屋さんで立ち止まり、一つを半分ずつ分けて頬張ったりした。さらにゲームセンターに立ち寄って格闘ゲームではしゃぎ、お昼になってお腹がすくと軽食店でランチとなった。特盛りのカルボナーラをぺろりと平らげる雪子の健啖ぶりに、慎二は感心するしかなかった。

 楽しい休憩時間には、鬼ごっこも一時休止となった。暗黙の了解というより、守らなければならないモラルであると慎二は思っていたし、そういう気づかいのできる男は頼もしいと、雪子も感じている。

 いつの間にか、夕方になっていた。二人はアイスキャンディーを食べながら、河川敷をぶらついている。 

「だいぶ、寄り道してしまったな。競歩遠足は終わってるかも」

「そうね、話し過ぎた気がするわ。孤高な女には一生分だったかもしれない」

「孤独な男も、一生分話したような気がするよ」

「これからは無口でいきましょうか」

「それはムリな相談だな」

「えいっ」

 雪子が慎二の前に出て、自分の食べかけアイスを彼の口の中へ突っ込んだ。キーンと前頭葉に鈍痛を感じながら、貪るように食い尽くした。ブルブルと頭を振ってから雪子を見る。

「なあ、俺たちもゴールしないか。菖蒲ヶ原さんに本気で伝えたいことがあるんだ」

 慎二が決着をつけようとするが、ものごとが確定する前の心地良い期待感をいつまでも楽しみたいと思っているのか、雪子はじらしてくる。

「じゃあ、本気で捕まえてみなさいよ。本気と書いて{マジ}って読むんだから」

「ヤンキーかよ」

 雪子が背中を向けて走り出した。十分すぎる休憩のためか足取りが軽く、動作に重力の枷を感じさせない。

 ゴールである雪風東高校までは数キロである。赤方偏移を始めた秋の夕陽をいっぱいに浴びながら、二人は走り続けた。ときおり、揺れ動く長い影が交錯しそうになるが、寸前のところで離れてしまう。そういう時は雪子が後ろを向いて、挑発するような笑顔を振りまいた。

 アメリカ合衆国海軍の音楽隊が、その河川敷の芝生グランドで練習していた。「レット・ザ・サンシャイン・イン」という曲が奏でられ、合唱隊が歌っている。ミュージカルにもなったノリの良い音楽で、体幹へダイレクトに訴えかけてくるグルーブ感があった。本番ではないにもかかわらず、多くの人たちが見物していた。   

 そこを通りかかった雪子が立ち止まり、慎二も少し前で停止した。彼女が十秒ほど聞き耳を立てたあと、曲のリズムにのってステップを踏み、上半身も連動して揺れ始めた。腕を上げたり下げたり左右に振ったりと、オリジナルではない独特のダンスを披露していた。

 若さに裏打ちされた躍動を強く感じさせるが、キレッキレというわけではない。要所要所にエッジを効かせて、それでいて自らの可愛さを洩れなくアピールするように緩く立ち回った。つられた慎二は、軽いステップと手拍子でなんとか合わせている。

雪子は夕陽を真正面で受けていたが、彼女の瞳にブラインドをかけさせるほどではなかった。しっかりと目を開けて慎二を見ていた。

「ほんとに、ほんとに、菖蒲ヶ原さんのダンスは最高だ」

 慎二の賞賛に対する返事は、その曲名を連呼することでなされた。数十人ものバックコーラスを受けて、雪子が高らかに歌う。その声は、彼女の内心にある想いを、自分が有しているもののすべてをぶつけるように甲走っていた。

 圧倒されつつ、慎二も口ずさまずにはいられない。運動着姿の女子高生と男子高生は、最後の最後まで歌って踊り続けた。

 演奏が終わり、一瞬の静寂が訪れる。慎二を見ている雪子の顔は、陽光を浴びて汗が光っていた。少し傾いだ刹那、万雷の拍手の中を走り出すのだ。

「待って」

 またもや追いかけっこである。二人は河川敷から学校までの数キロを走りきろうとしていた。 

「菖蒲ヶ原さん、待ってくれよ。もう少しスローに行こう」

「もうすぐよ、慎二。ゴールはあの壇上だから」

 校門を通って、出発点であるグランドへやってきた。夕陽を浴びて朱に染まった大地に、朝礼台がポツンと鎮座していた。  

 そこへ雪子が駆け上がり、コンマ五秒後に慎二が続いた。振り向いた雪子を、ようやく捕まえることができた。

「きゃっ」

「捕まえたぞ」

 両手を雪子の腰に回して抱き寄せた。怖がっているかのように、女の子は少し顔を引いていた。二人はしばし見つめ合い、視線を強く絡めていた。

「好きだ」

 短い告白だった。

「私も好き」

 短い返答だった。

 雪子の頬が慎二の胸に寄りかかる。彼の鼓動を感じながら、雪風東高校へ入学して以来、胸を焦がし続けていた恋心を告白する。

「この時を待っていたの。ずっとこの光景を見てきたから。何度も見ていたよ、赤い空のもとで慎二と向かい合うのを。やっと本当になった。すごくうれしい」

 少し汗に濡れた髪が額に貼りついていた。可愛らしい顔が見上げて、しっかりと、でも、どこか泣きそうな表情で見つめている。

「俺は待たせてしまったんだな」

 すでに、二人の間に物理的な距離はなかった。体がピタリと密着している。お互いの体温交換は初めてではないが、いまは緊急避難としてではない本気の熱交換となっていた。  

 初めてのキスは唇が軽く触れる程度だった。雪子の、あまりの柔らかさに驚く慎二であったが、態度にはおくびにも出さずに抱きしめた。彼女から強く求めることはなかったが、かといって身を引かれることもなかった。

「俺は、菖蒲ヶ原雪子を強奪したと、ここに宣言する」

 朧との約束事を果たそうとしていると同時に、自らの能動的な意志で雪子と恋人同士になりたかったのだ。

「新条慎二に強奪された私がいますよ」

 雪子の声は、いつになくか細かった。うるんだ瞳から涙滴が落ちそうになる。人生のすべてを捧げて雪子を守り抜くのだと、慎二は決心する。

 再度、唇が触れ合おうとしていた。その衝動は電磁石よりも強く、なにものも妨げることはできないように思えた。

{エロいぞー}突如として、白い鳥が二人の頭上をパタパタしていた。

 触れ合おうとしていた顔が寸前で止まり、ハッとして上空を見た。さらにお互いを見て、周囲を見た。

「慎二、二回目はオレの見てないところでやってくれよ。さすがに嫉妬しちゃうぜ」   やや下方から赤川の声が飛んできた。

「強奪しちゃいましたか、慎二先輩。まあ、しょうがないですね」同じく朧が言う。

「なんか悔しいけど、友だちだから、いちおう祝福してあげる」夕子は猫顔を戻した地味女子であった。

 いつの間にか、雪風東高校の生徒たちがグランドへ集まっていた。競歩遠足をやり終えて大半が帰宅していたが、二割ほどが居残ってグダグダと健闘をたたえ合うのが毎年の恒例である。

 今年は学校側が気を利かせて体育館で飲み物や軽食を用意していたので、一時的にそちらへ移動していた。競歩遠足担当の教師が解散式をやると声をかけたので、グランドへと集合したのだ。恋愛に夢中な二人は、彼ら彼女らの接近を気に掛けるどころではなかったのだ。

「うわ、これはちょっと恥ずかしいな」

「ちょっとどころではないわ。早くジャンプしなさいよ」

「え、ここでか」

「そうよ。私を強奪したのだから、責任をもってロマンチックな場所へ連れて行って」

「だから、俺のサイキックは無意識の衝動で」

「慎二の炉心がしっかりと核融合するように、無意識の衝動を手伝ってあげましょうか」

 意味深な言い方である。苦笑いはほんの一瞬だった。

「それは、またいつかにするよ。いろいろと心の準備をしなきゃならないから」

「私もよ」

 ふたたび二人の唇が合わさった。今度は、強く、長く、しっかりとした口づけとなった。

 おおーっと、生徒たちがどよめき、歓声があがった。腕を掲げてガッツポーズをしているのは赤川である。朧はピースサインで祝福し、地味顔が微笑んでいた。

{エロいぞー}とピーちゃんが叫び、空高く上昇した。朱に染まった夕陽は、いつまでも落ちる気配がなかった。

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