第15話

 新条家の食卓に三人の高校生がいる。慎二と極劣化赤川が並んで座り、対面にはふくよか雪子が腰をおろしていた。やや遠くで黙している白いオームは、不遜な顔の客と顔を合わせないように、あっちの方を向いていた。

 テーブルに所狭しと並べられた料理の数々を見て、空腹であるブサイク男子の四角い顔が丸く崩れていた。

「おっひゃあ、うんまそう。いただきま~す」

 極劣化赤川が、慎二やふくよか雪子の許可もなく貪り始めた。くちゃくちゃと耳障りなノイズと食べカスを撒き散らしながら、ほぼ手づかみで口に放り込んでいた。ふだんの赤川大輝はスマートで行儀よく、仕草はしなやかでスキのない男子である。意地汚い食べ方を見せる男ではない。

「人っていうより、異星人の捕食生命体って感じよねえ」

「赤川は腹が減っていたんだよ。きっと別人になってしまって、小雪の降る夜の街をさ迷っていたんだ」

「寝ないで考えた私の作り話をパクらないでよ。なつかしいじゃないのさ」

「失礼しやした」

 フフフと、お互いの顔を見て笑みを浮かべる。

 呆れている二人を気にすることなく、極劣化赤川の卑しく行儀の悪い食べ方が続いていた。なんら遠慮がなく、しかも必死の形相である。「ハウスハウス」と、ふくよか雪子がしつけの言葉を投げつけていた。

「菖蒲ヶ原さんだけじゃなくて赤川まで姿が変わってしまったんだけど、これはどういうことだろう」

 雪子だけではなく、赤川大輝までもが別人になってしまった。困難が二つとなり、慎二は大いに悩む。

「簡単じゃないの。赤川君が姿を変えられる能力を得たってことじゃないの。私と同じシェイプシフターのサイキックよ」

「なんで赤川まで変身サイキックになっちゃうんだよ」

「私が知るわけないじゃないの。母親の下着の色が派手すぎるとかじゃないかしら」

 慎二が苦笑いで返答をする。してやったとばかりの上から目線のまま、ふくよか雪子がから揚げを頬張った。

「ちょっと待ってくれよ。サイキックってなんだ。このわけのわからん現象の説明になるのか。たしか霊能者とかだよな。アメドラにあったな」

「ちょっとう、顔をこっちに近づけないでよね。私の具合が悪くなっちゃうじゃないの」

 さんざん食べ散らかしたので、口の周囲が幼児みたいに汚れていた。

「そっちだってメタクソ暑苦しのに、なに言ってんだよ」

「暑苦しいとは、よくも言ってくれるじゃないの。豊満な女は女神の五億倍。ブッサイクは夜の墓場で安生しなさい」

「はあ?出っ歯の男は魔王もサレンダー。ブサイクがクセになる午後の熟女妻を崇めよ」

「なによ、メタボな女子はポカホンタスもクリソツ。デュカプリオとおしゃれなサンセットビーチでアジフライ」

「なにおー、ブサイクな男子はファイティングにら臭。ちょい臭男子にドリームギャルがパンチラ三昧」

 特徴的な男女による避けきれない闘いであり、そのつかみどころのない啖呵の切り合いは果てしないように思われた。 

「菖蒲ヶ原さんも赤川も落ち着こう。ケンカしてる場合じゃないだろう。てか、どういうバトルなんだよ」

 慎二が止めに入る。ふくよか雪子がミルクセーキを飲んで頭を冷やし、極劣化赤川もミルクセーキのグラスに手をかけるが、口に運ぶ前に図太い女子の手がたっぷりの砂糖を放り込んだ。

「ううーっ、甘、あんまっ。オレはアリかっ」

 あまりの激甘さで、逆に口をすぼめたすっぱい顔になってしまった。それでもすべてを飲み干し、ニラ臭い息を吐き出した。

「うう、甘い。もう一杯」

 ふくよか雪子と極劣化赤川がお互いの顔を睨みながら、鬼の形相で食べる食べる。

あれだけ作られた料理が、あっという間に食べつくされてしまった。慎二が食べたのはカラ揚げとジャーマンポテトが少しで、残りはふくよかな女子とブサイクな男子が平らげた。満腹になった二人は、静かにまったりとした時を過ごしている。もう喧嘩はないと判断した慎二が話を切り出した。

「とにかく、こうなってしまったからには赤川にも情報を共有させないと」

「まあ、そうね。じゃあ、そこのブッサイクに説明してあげるわ」

「ああ、聞こうじゃないか。デブ女」

 敵意のこもった目線を突き刺しながら、ふくよか雪子がサイキックの説明を始めた。ただし、変身できる能力についてだけであり、いまは発動しなくなったが、慎二の瞬間移動や自身のプレコグについては割愛した。その気づかいを慎二も良としている。

「なるほど、オレと菖蒲ヶ原さんは超能力者で変身する能力があるのか。よくわからない説明だったが」

「シェイプシフター、ってところかしら。箱の怪物にならないだけよかったじゃないの」

「オレはミミックじゃないぞ」

 紅茶のお代わりを飲みながら、ふくよか雪子はいくぶん楽しそうな表情である。

「でも、変身したいと思ってないのに変身したのはなぜだ。しかも、ブサイクな顔になってなんにも良いことがないぞ。菖蒲ヶ原さんは、その体が好きみたいだけど」

「私も好きでこの体になったわけじゃないわよ。突然なの。元に戻らなくて困っちゃってるんだから」

「これ、どうやったら元に戻るんだよ」

「サイキックのオン・オフスイッチは無意識的な衝動みたいなんだ。自分で制御できないっていうか。時として中心部に破壊的な衝撃が走るというか」

 股間のあたりを気にしながら、慎二が答える。ふくよか雪子は素知らぬ顔だ。

「じゃあ、オレはどうやって戻ったらいいんだ。いつもの赤川大輝になるのはいつなんだ」

「だからあ、私たちの超自然的な能力は制御不能なのよ。菖蒲ヶ原雪子が菖蒲ヶ原雪子に戻るのは二分後かもしれないし、あさってかもしれないし、イケメン生徒会長が元通りになるのは、あと三十年後かもしれないってことなの」

「なんか、オレの復活期間だけ異様に長すぎるんだが」

「たとえばの話よ。五十年後だってあるんだから。死んだ後でも、ちゃんと成仏するのよ」

「菖蒲ヶ原さん、友人を追い込まないでくれよ。この顔で闇に落ちるのは忍びないんだ」

「そうね、闇の住民がウケちゃったら明るい場所になっちゃうわ」といって、出っ歯のマヌケ顔を見た。

「くっ」

 笑いをこらえている二人を、極劣化赤川は冷めた目で見ていた。

「慎二もサイキックなのか。やっぱり、いきなり変身したりしたのか。やけに詳しいが」

「い、いや、俺はそういうのじゃないよ。菖蒲ヶ原さんの状態を聞いたり観察した結果、そういうふうに考えたんだ」

 瞬間移動のサイキックは打ち明けたくないと思っていた。説明が面倒なのと、友人に黙っていたことを責められそうだからだ。

「そういえば慎二と菖蒲ヶ原さんって、どういう関係なんだよ。すごく親しいように見えるけど」

 出っ歯が疑惑と猜疑のマヌケ顔を向けた。もやっとした嫉妬も加味している。

「い、いや、それは、なんというか」 

 慎二が言い淀んでしまう。菖蒲ヶ原との関係については彼自身も正解を知らない。だが、ふくよか雪子は淀みなく言い放った。

「センチメンタル・フレンドよ」

「えっ」と、反射的に目が点になったのは慎二だ。

「せんちめんたる、なに?」

 出っ歯顔が疑問形だ。

「顔だけじゃなく耳までブッサイクなのね。センチメンタル・フレンドって言ってるでしょっ」

 言葉の最後が跳ね上がってしまったのは、照れくささを感じているのだろう。

「慎二、センチメンタル・フレンドって、どういうフレンドなんだ」

「どうって、それは、だから、センチメンタルなフレンドだよ。俺と菖蒲ヶ原さんはそういうフレンドだから、べつにあやしい関係とかじゃないからな。健全なセンチメンタル・フレンドなんだ」

「そうなのか」

 納得したようなしていないような微妙な表情であった。慎二の差し出した飲むプリン缶を、前歯を気にしながらグイッとのんで一息ついた。

「うー、死ぬほど甘いー。またかよ。この家はアリか」

 極劣化赤川が飲み終わった缶を持っていると、ふくよか雪子がそれをひったくって新たな缶を持たせる。彼は勢いのまま飲み干した。

「うー、死ぬほど甘いー、もうやめてくれよ」

 飲むチョコレートパフェ缶をカラにしてから、甘い甘いと唸っていた。慎二とふくよか雪子が、クックと笑っている。

「今日はなんだかたいへんだったわ。体は重くなるし、イケメン生徒会長はブッサイク男になるし」

「ブサイクで悪かったな」

「気にしなくていいわ。男は中身で勝負よ。めげずに裏道を歩いていくがいいわ」

「励まされているのか、貶されているのか、わけわからんぞ。てか菖蒲ヶ原さんって、こんな人だったんだな」

 とっつきにくい女とは理解していたが、予想の斜め上をゆく手強さに、女子慣れした元イケメンが困惑していた。

「そう、なにを隠そう、これがあの菖蒲ヶ原雪子、ドSの・・・、さんだ」

 言っている途中でふくよか雪子に睨みつけられてしまい、友人にそれ以上の情報を伝えることができなかった。成人式の夜に、酒を酌み交わしながらしみじみと白状しようと慎二は思っている。

「はあ」と、極劣化赤川が重苦しい息を吐き出した。

「赤川、地球の底が抜けそうなため息をつくなよ」

「菖蒲ヶ原さんじゃないけど、ホントに今日は厄日だよ。おかしな顔になるし、家には帰れないし、あいつにぶつかってからロクなことがない」

「あいつって?」

 ブサイク赤川はなにげなく言ったのだが、慎二が食いついた。

「五組の岡島だよ。帰り際に廊下でぶつかったんだ。鼻を潰されて鼻血が出たのに、あいつ謝りもしないで行っちまって、ホント腹立つんだよなあ」

「岡島って、なんか聞いたことがあるな」

「女たらしのケツ野郎だよ」

「あ、そうだ、それだよ。菖蒲ヶ原さんをナンパしようとしてたって、朧が言ってたっけ」

 岡島という二年生の男子生徒は、赤川ほどではないがそこそこ顔がよくて、やたらと女子にちょっかいを出すことで有名であった。

「ちょっとう、女たらしの話題にどうして私がでてくるのよ」

 自分の名前を出されて、ふくよか雪子がさっそく首をつっ込む。

「五組の岡島って、ちょっとばかし顔がいい男子を知りませんか」

「顔がいい男子は生徒会長だけしか知らないわ。ああ、でも目の前にいるおマヌケさんは別人扱いだから」

「顔はマヌケでも、心は赤川大輝なんだ。オレは赤川大輝なんだ。絶対に」

「まあまあ」

 顔がいい男子リストから自分も除外されていることに多少の残念さを感じながら、慎二はムキになっている友人を諫めた。

「前にしつこい男子がいたわ。それほどイケメンって感じではなかったけれど、街のキャッチみたいにねちっこくて軽薄でチャラくて、当然無視したけどイラっとした。それが岡島って男子なの」

「そうです」

「ケツ野郎、って、どういう意味?」

 その誤解を招きそうな微妙な呼び名については、極劣化赤川が説明する。

「女のケツばかり追いかけている、いけ好かない野郎だから、ケツ野郎ってよばれてるんだ。あいつ、なにげに根性もひん曲がっているからな。被害にあった女子がいるんだ」

 怒りの表情で語るが、顔が顔なだけにちっとも正義を感じさせない。

「そういえば、今日ね、そのケツ野郎に私も遭ったわ。お昼にジュースを買いに行ったら、自販機の前で声をかけられた。映画を誘われたけど、もちろん無視したけど、しつこかった。キモいのよねえ、なんかヘンなニオイがしたし」

「それは初耳だ」

 お昼を雪子と過ごした慎二が意外そうに言った。

「夫婦でもあるまいし、いちいち慎二に説明しないわ」ツンとされてしまう。

「いまの菖蒲ヶ原さんをナンパするとは、さすがケツ野郎だ。女に見境がない」

「ちょっとー、自分がブッサイクだからって私に当てつけないでよね。お昼までは、いつも通りのスリムな雪子さんだったんだから」

「たしかに、菖蒲ヶ原さんはお昼までは異常なしだった」

 慎二がフォローすると、フンと馬並みの鼻息を出した。

「となると、ケツ野郎にナンパされてからその体になったってことか。ぶつかったわけじゃないけど、オレの場合と似てるな。あいつ、バッチい菌でもついてるのかなあ」

 なにかの解を見つけて言ったわけではないが、慎二の感がなにかをキャッチする。

「ちょっと待って。そこ重要かもしれない」

「そこって、どこだ。ここか」と言って、目の前に立っている女の脇腹のぜい肉を指でツンツンした。

 バシッと乾いた音がして、四角いブサイク顔が大きく傾いた。ついでに椅子ごと倒れ込んでしまった。

「菖蒲ヶ原さん、暴力はだめだって」

「私がセクハラされたのよ。痴漢よ、痴女。これは正当防衛なの。もっとぐちょぐちょにしてやってもいいんだから」

「いや、痴女は違うと思うけど。それにいまの菖蒲ヶ原さんは質量的にヤバイことになってんだから自重しないと」

「そういえばそうね。余分なフォースを感じるわ」

 頬を手でおさえながら、極劣化赤川が呻いていた。

「オレのアゴが外れて顔が変わったんじゃないか。慎二、ちょっと見てくれ」

「とりあえず大丈夫。ノープロブレムだ」

 その顔ではアゴが多少外れようとも気にならない。いや、かえって外れたほうがいい感じになるのではないかとも思っていた。

 友人の手を借りて極劣化赤川が起き上がり、少し傾きながらも椅子に座った。ふくよか雪子はすでに着席していたが、なるべく距離をとる。左の頬を差し出すつもりはないようだ。

「二人とも岡島に会ってから変身したという事実がある。これを偶然と考えてもいいんだろうか」

「ケツ野郎菌に近づいたから、デブになったのかもな」

 慎二の問いに、友人はふくよか雪子をチラ見して答えた。

「ブサイクになったというべきよ」

 当然、女子が言い返す。慎二の目がキラリと光った。

「こんな偶然、なんかおかしいよ。今回のサイキックは二人に共通しているところから発していると思うんだ」

「やっぱりケツ野郎が原因か。あいつにぶつかったりナンパされたりしたから、オレたちは変身の超能力を身に着けてしまったってことなのか」

「違うわ」

 ふくよか雪子が勢いよく立ち上がった。大樽のような上半身がぶるんぶるんと見事に揺れて、おおー、とブサイク男子が感心する。

「私たちがシェイプシフターの能力を持っているわけではないのよ」

「俺も、そう思った」

 ふくよか雪子は考えのすべてを披露したわけではないが、慎二には彼女の言わんとすることが読めていた。

「シェイプシフターのサイキックは、岡島っていうケツ野郎よ」

 腰に手を当てて体をひねる、いつものキメポーズであった。慎二が頷き、極劣化赤川が眩しそうに見上げていた。

「正確にはシャイプシフターじゃなくて、シェイプシフターの変種ね。自分が変身するのではなくて、誰かの姿を変えられる、ってことなんじゃない」

「その線が濃厚だ」

 樽のような体の、どの線が濃厚なのかと、出っ歯なマヌケ顔が眺めていた。

「サイキックが制御できないのはいつのものことだけど、今回はサイキックがあるって実感がないのよね。なんか、炭酸が抜けきった気がするのよ」

 ノーリアクションの慎二であるが、極劣化赤川が反応する。

「今回っていうことは、やっぱり前回があったんだな。菖蒲ヶ原さんは超能力者だったのか。どんな能力があったんだよ」

「どんなって」

 よけいなことに食いついてきた男子を面倒くさそうに見て、フンと鼻息を吐き出してから言い放った。

「恋愛予知能力よ」

「ええっと」と、疑問符を頭の上に浮かべたのは慎二である。

「誰と誰がくっ付くかってのを、私は予知できたの。どう、すごいでしょう」

 プレコグだったことを誤魔化すために、あえて本体をぶつけてきて煙に巻こうという魂胆である。恋愛と関連付けることで、超能力という現象の一般化を狙ったのだと慎二は解釈した。

「たとえば、これから誰と誰がくっ付くんだよ」

 極劣化赤川の、猜疑心が確証を求めていた。

「音楽の冬月先生を知ってるでしょう」

「ミスコンで優勝したこともある美人だからな。オレたちの中にもファンがいるよ」

「年明けに地理の剣崎と結婚するよ」

「ええーーーーっ」

 潰れたガマガエル顔が大仰にひきつった。地理を担当する剣崎教諭は雪風東高校きっての陰キャ教師であり、オタクとニートを合体させたような風貌だ。

「子供が一人産まれてから剣崎先生が浮気して離婚、冬月先生はシングルマザーになる」

「マジか。よりによってあの剣崎と結婚とかありえねー。てか、剣崎が浮気とかありえねー」

 ほかにもっとネタはないのかと尋ねたが、サイキックの発動は衝動的で自分では制御できないのだと説明した。

「オレ、ちょっとトイレに行ってくるわ」

 極劣化赤川が席を立った。「♪ションベンションベン♪」と口ずさみながら居間を出ていく。慎二がふくよか雪子と向かい合った。

「プレコグは発動しなくなったのでは」

「いまのはデタラメよ」

「ええーっ、ウソなんか」

「あの見るからに虞犯のキモ剣崎が結婚できるわけないじゃないの。ブッサイク男がヘタに探りを入れないようにテキトー言ったのよ。察しなさい」

「いや、それとなく察してはいたけど、テキトーすぎるんじゃないか。あとグハンってなに。中華とか」

「とにかく、そういうわけだから、岡島ってやつがあやしい。きっとそいつが犯人で、私の体を弄んだのよ」

「いかがわしい事件の被害者みたいな言い方はやめよう。想像しちゃうよ」

「私の体がいじられたのは事実じゃないの。生徒会長も」

「まだ100パーセントじゃない。そうだとは思うけど」

「私の感はよく当たるって、三丁目界隈では有名なのよ。あいつをつかまえて白状させなきゃ」

「どの三丁目かは問わないけど、岡島を調べてみることは賛成だな」

 極劣化赤川が帰ってきた。出っ歯が邪魔なのか、椅子に座ってからも、突き出した前歯をいじくっている。

「ちょんと手を洗ってきたの」との問いに、濡れた手を振り、しぶきを撒き散らして返答した。

「いやあ、汚っない。なにするのよ、この、ブッサイク男。すまきにして東京湾に沈めてやるから。コンクリートだって練っちゃうわよ。打設よ、打設」

「脂マシマシの肉女と一緒なら、たっぷりスープの海で溺れたいな」

「二人とも、キャラが暴力的かつ下品になっているぞ」

 ふくよか雪子と極劣化赤川の間隙が不穏だ。慎二がそこに身を入れて、衝突しないように気をつかう。変身した原因が岡島という生徒であるとの話を続ける。

「じゃあ岡島に会ってみよう。本人に会って、おまえがオレたちを変身させたのかって問い詰めてやるんだ」

「もし岡島って男子がサイキックなら、きっと能力を隠すと思うの。問い詰めてもすっとぼけるわ。それに、今日はもう遅い。いまからケツ野郎の家に行っても騒ぎになるだけよ」

「女子の口からケツ野郎という言葉が聞けるのは、ちょっと萌えるよな」慎二は嬉しそうだ。

「そう。ご希望なら何度でも言ってあげてよ」

 ふくよか雪子の流し目が思いのほかセクシーだと、男の子はドキッとする。

「女子というより、肉の塊」

 浮ついた雰囲気に、極劣化赤川がすかさず水を差す。

「このブッサイクな異星人を、いますぐにでも亡き者にしてあげるところだけども、今日は慎二の家に泊まるんだから大人しくしておくわ」

「オレもそうするよ。この顔が戻らない限り家に帰れないし」

 変身した二人が慎二の家に泊まると宣言した。ふくよか雪子は予約済みであったが、極劣化赤川はとび込みとなる。

「ええっと、泊まるのはいいとして部屋はどうしようか。母さんが帰ってきて、空き部屋がないんだけど。二人とも居間で寝ることになるかな。あとピーちゃんと」

 静かにしていたオームがバタバタと騒ぎだした。

「ちょっとー。こんなブッサイク未確認生物と同じ部屋で寝られるわけないじゃないの。私はレディーなのよ」

「デブがいっしょだと部屋の温度も上がりそうだしな。暑くて寝られやしねえ」

 二人の相性は時間を経るごとに悪化していた。慎二はどうしたらいいのかと悩んでしまう。

「私が慎二の部屋で寝るんだから、あんたたちは外で寝なさいよ。庭でやぶ蚊に刺されながら、ごま油を塗って舐めてればいいのよ」

 迫力ある女体が男子二人をベランダから外へ押し出そうとしていた。

「ちょ、ちょっと待って。ここは俺の家なんだけど。どうして野宿しなきゃいけないんだよ。てか、ごま油のくだりの意味がわからない」

「いいから出ていって」

 結局、ふくよか雪子は慎二の部屋で寝ることになった。外へ追い出された男子二人は居間に戻ってゴロ寝となった。ソファーで寝ている友人とケージの中で叫びまくるペットの鳴き声を聞きながら、慎二は自分のベッドで寝ている女子のことを想っていた。

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