復讐のレアンカルナシオン

三流木青二斎無一門

第1話

夕方。

学校帰りの東極とうごく宗十郎そうじゅうろう

何事も無く帰路を歩き自宅へと戻る。

何てことは無い一軒家。

リビングではテレビの雑音。

空気に漂う母親が作った料理の臭い。

其処に紛れる、血の臭い。

異変を感じ取り、家の中へと入る。

そして、リビングに顔を出すと。

化物が二体。

それに加えて。

テーブルの上に立つ男が、妹の首を絞めながら指を手に突っ込んでいた。

苦しみ、悶える表情を浮かべる妹。

だらしなく唾液を垂らし、相手の指を受け入れる姿が見えた。

異常事態だと判断した東極宗十郎は。

地面を蹴り上げると共に。

妹に暴行を与える敵に接近したが。


「ぐあッ!」


近くに居た化物二体が衝突。

彼を壁に叩きつけた。


「この家の住人かァ?」


男は首を傾げた。

真っ黒な霧に顔を包み込んだ異質な存在。

血走った眼球とピンク色の歯肉を剥いた歯茎が色鮮やかに見える。

人とは思えない容姿をした男が、妹を手放した。


「この家の人間は、ダメだな、適性が無い」


残念だと呟きながら、男はテーブルから降りる。


「誰だテメェ!妹に何しやがった!!」


叫ぶ東極宗十郎。

その声に小指で耳の奥を穿りながら面倒臭そうに答える。


「俺は、外神とがみ人外じんがいと言ふ、なんて事は無い、災害の様なものだ」


外神人外。

そう名乗った男は、耳の奥から何かを取り出した。

宝玉の様に綺麗な色をしたビー玉の様に見えた。


「ぶっ殺してやるッ!離せ、化物がッ!」


化物二体に向けて叫ぶ東極宗十郎。

その言葉を聞いて悲しそうな表情を浮かべる、外神人外。


「なんて酷い事を言うんだ、


その台詞を受けて。

東極宗十郎は一瞬、抵抗するのを止めた。


「あ?」


そして、外神人外は彼の頬を掴んだ。


「両親だよ、彼らはハズレだ、適性が無かった」


彼の体を抑える化物。

それが、彼を産んだ両親だと言う。

その事実を知った時。

東極宗十郎の脳内に流れる家族との記憶。

それと共に、外神人外が持つ宝玉が、彼の喉奥へと押し込まれた。


「が、ぁッ!」


楽しそうに笑う外神人外。


「さて、君には、適性があるかな?」


色鮮やかな紫色の宝玉。

彼はそれを飲み込んでしまった。

その瞬間。


東極宗十郎は内側から別の意志が生まれた。

顔面を蒼白にしながら、眩暈の様なものを感じる。

人格を貪り喰らわれる様な感覚。

肉体が膨張し、肌の色が紫色に変色する。

その姿を見て、外神人外は心底つまらなさそうな顔をした。


「なんだ、コイツもハズレか」


その言葉を残して踵を返す。


「食べて良いよ、それ」


化物二体。

両親だったものに命令をする。

口を大きく開く化物。

東極宗十郎は苦しみを抱きながら。

理不尽に、激怒した。


瞬間。

彼の内側から熱が発した。

血液に塗れた鈍色の刃だ。

肉を裂き、肌を斬る刃。

それが彼の肉体を押し込んだ化物に突き刺さる。

強烈な痛みを抱く東極宗十郎。

しかし、痛み等、苦しくは無い。


「が、ァ」


腕を振るう。

腕から生えた刃が、化物を切り裂いた。

両親だったものを殺した彼には罪悪感は無い。


ただ。

その脳内には消え尽くせない復讐の色で満たされている。

外神人外と言う男を殺すまで。

東極宗十郎は、痛み程度では止まらない。


「おオ!土壇場で覚醒したかッ」


驚愕する外神人外。

自らが与えた異能が覚醒したと喜ぶ。

痛みで意識が飛びそうな東極宗十郎。

相手の悦ぶ顔を見て反吐が出そうだった。


「殺して、やる、外神ィ、…人外ィ!!」


叫ぶ。

両腕に生えた無数の刃。

それを振り向けながら外神人外へと接近。

しかし、外神人外は慌てる様子は無かった。


「良い良いッ!では、兄妹同士で戦わせてみよう!!」


と。

テーブルの下に倒れている妹に視線を向ける外神人外。

彼の言葉と共に、東極宗十郎の頬に向けられて衝撃が飛んだ。

リビングから窓に向けて彼は叩き付けられる。

ガラス片が飛び散りながら、塀に衝突し、向かいの家の敷地へと侵入した所で。

彼は肉体から飛び出た刃を伸ばして、地面に突き刺し、慣性を殺す。


「はッ、ぐあッ」


自分が壊した塀の方へ顔を向ける。

ゆっくりと、壊れた塀を歩きながら出て来る、妹の姿。


「き、妃紗愛きさら…」


妹の名前を口にする。

彼に似ず、可愛らしい顔をした少女だ。

脳内では、妹との記憶が蘇る。


『兄さん、おはよう』

『雨に濡れちゃったね、兄さん』

『こほッ…私のせいで…遊園地、行けなくて…ごめんね』

『兄さん、大好き』


両親は死んだ。

それでも、妹が生きている。

失ったと思った東極宗十郎は、大切なものが残っている事に感涙しそうになった。

だが、それは間違いだった。


東極宗十郎に向けられる眼。

それは、明らかに敵意を抱く表情だ。


「…く」


ゆっくりと。

東極妃紗愛は口元を歪めると。


「きゃはッ!なにこれ、第二の人生って奴ぅ!?」


下品に笑いながら、悦びを表現していた。


「えー、ヤバ、この体、おっぱいデか…んっ」


豊満な胸を揉みしだき、嬌声を漏らす東極妃紗愛。

その動作で、彼女が、妹では無い事を察した。


「誰だ、テメェ…妹に、何をしやがった…ッ」


怒りを浮かべる東極宗十郎。

手を後ろで組みながら、東極妃紗愛は言う。


「何言ってんのお兄ちゃん、あたしだよ、お兄ちゃんの事を思い浮かべながらぁ…毎日オナニーしてる東極妃紗愛だよォ!きゃははッ!!」


下卑た声だった。

その時点で、東極宗十郎は、彼女が東極妃紗愛では無いと理解した。




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

復讐のレアンカルナシオン 三流木青二斎無一門 @itisyou

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ