第2話
彼女の慟哭がきこえないほど遠ざかったころ。
ほのかに頬を染めた彼がこちらを見た。
「玲愛ちゃん? あのさ、さっそくだけど今度でかけない?」
その彼を見上げて、あたしはにっこり微笑んだ。
フィナーレの後にはカーテンコールを。
つまり、儀式の仕上げだ。
「ごめんなさい」
「え?」
目をしばたたき、カラスにつつかれたかかしのように呆然と立ち尽くす彼を前にとるのは、困ったぶりっ子ポーズ。頬に右手の人差し指を添えて。
「たしかにあたし、あなたに興味あるって言ったけど。あの清純派女優の情けない泣き顔見るための道具としてだったのよねぇ」
「え、それってどういう……」
「恋人としては興味皆無なの。それじゃ」
さっと爪までそろえた手を振ることジャスト一回。
その足で向かったテレビ局の関係者用出口には、さっき泣かせたばかりの清純派女優の彼女が待ち構えていた。
涙迸るままにその子は――がっしりと、あたしの両手を握る。
「玲愛ちゃん、ありがとう! ほんとうにありがとう……!」
「ちょっと。大げさね。たいしたことじゃないわよ」
彼女はあたしの一人芝居のお客様。
兼、共演者でもある。
「あいつ、ほかの女の子とデートしたり、平気で嘘ついたり。そのくせ別れたいって言うと大声あげて、始末に終えなかったんだ。こんなにスッパリ別れられるなんて。玲愛ちゃんのおかげでほんと助かった! 今度お寿司おごらせて」
――そう、この子もまた女優なのだ。
さっきの泣きが演技だったとは。
つくづく女って恐ろしい。
清純派女優の彼女と、そのいじわるな恋敵役をドラマで演じたあたしとは私生活もいがみあっているなんて噂をマスコミは囁いている。
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