恋壊し屋の恋

ほか

First Secret ~ラブ・クラッシャー、あるいは最悪女優~

第1話

「ごめんなさいね。あなたにもう彼とつきあう権利はないの。あたし、この人が気にいっちゃったから」




 組み合わせた両手のひらを男の肩に乗せ、そのうえに顎を乗せると、清純派女優を生業にしているその子にあたしは微笑んだ。




「ひどい……!」


 かわいい顔も完璧な化粧も台無しにして、計画通りその場に頽れる彼女を前に、隣の彼に囁く。


「ねぇ、あたしとつきあいたくないかしら?」

「それは。えっと。参ったな」


 若手俳優としてそこそこ名を馳せている彼は、戸惑ったように頭をかき、うつむく。


 これも計画通り。

 数か月前からハニートラップの仕込みはできている。


「いやなの?」


 ねっとりと囁けば、数分前仕込んだグロスがこすれてローズの香りを放つ。


 数秒の沈黙の後、男は意を決したように顔を上げた。


「ごめん。オレ、玲愛ちゃんとつきあうわ」




 モデルの彼女は見るも哀れ、声をあげて泣き出した。

 今日も上々のフィナーレを背に、彼に腕を絡め、退却する。



 舞台を芸能界に設定した、月に二、三度の儀式。

 マスコミにもとうに知れ渡っている。

 ワイドショーや雑誌記事での二つ名は、史上最悪女優。

 それがあたし、強玲愛こわしれいあだ。

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