第110話
セーヌ川を走る大型船は、豪奢なブルボン宮横の発着所を出航し、パリ一の美しい橋だと言われる、アレクサンドル三世橋にさしかかろうとしている。
アールヌーヴォーの街灯と黄金に輝く天使の像が頭の上をゆっくりと通過していく。
さくっとバケットをかじったプレヌは、声を上げた。
「おいしーいっ!」
飴色のル・キャラメリエをたっぷりとつけて小さくちぎり、口に放る。
こうしていると、落ち込んでいた自分自身が小さく見えてくるから不思議だ。
ロジェがちらとこちらに視線を寄越す。
次に口に運んだサーモンとクリームチーズのホットサンドとあいまって、あたたかななにかがプレヌの中にどっと流れ込む。
そのとき、ベルの音が鳴った。
前方にそびえるのはバラ窓が麗しいノートルダム大聖堂。
ここでも、愛の女神の祝福を受け夫婦となった二人のために鳴り響いているのだ。
あちゃっとロジェが額をたたく。
プレヌは思いっきり、昼間のことを思い出している。
口の中に残ったパンくずを空しくかみ砕きながら、呟く。
「……友人の幸せを素直に喜べないなんて。自分がこんなにせせこましい人間だとは思わなかったわ」
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