死ぬまでの暇つぶしにパリ巡りでも

ほか

序章

第1話

 物語は冒頭から早くも終わりを迎えようとしていた。

 ヒロインが死にそうなのである。



 19世紀半ばのパリ。通りにパラソルとテーブルを連ねたカフェのアウトサイド席が連なるサン・ジェルマン・デプレ東の外れの雄大なるセーヌ川が交差する通り。

着飾った人々が行きかい、春のうららかな日差しをこれでもかと身に纏うその大河のほとりを、日傘にレースの手袋で優雅にゆくパリジェンヌたるべき我がヒロインはめっためたのぼこぼこに殴られていた。



 手入れをすればそれなりだろう淡いブロンドは顔を持ち上げるために使用されたためさんざんに乱れ、平生はアップルグリーンにきらめく瞳は苦渋に歪められ、見られたものではない。

 紺色のドレスも裾が千切れ、何度も泥に投げ出されたせいで汚れている。

 彼女を殴っているのは男だった。

 年は二十を超えたあたりか。理性をとうに失った激しい横暴にもかかわらず貴族らしく着飾ったクラヴァットにはしわ一つ寄せ付けていない。



「オレから逃げられると思うなよ……っ、とことんまで貶めてやる」

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