Act37.夢未 ~数理の及ばぬ世界~
第100話
お風呂から上がってタオルでぽんぽんと髪をたたくわたしを見て、在宅お仕事のパソコンから顔をあげた星崎さんの顔が、こわばりました。
身に着けているのは、彼に貸してもらった長めのティーシャツに短パン。
「へんですか?」
「あ……」
なぜかうつむいて、星崎さんはらしくもなくもごもごと口を動かします。
「いや……」
そっと庭に通じるリビングのガラス窓を見やるとそこに映っているわたしは、生足がほとんど出ていて。
薄手のシャツがちょっと大きくて。
我ながらちょっと大胆な感じでしょうか。
「ごめん。やっぱり、別のを探してくる」
かすかに顔を赤らめた彼が、キッチンテーブルから立ち上がりかけました。
「いいえ、だいじょうぶです!」
ぴょんぴょんとかすかに飛び跳ねて、オーケーなことをアピールします。
「わたしこれでいいです! 憧れのカレカジです~」
星崎さんが、動きをとめました。
「なにそれ」
「彼に貸してもらったお泊りデート感のある服。憧れだったんです」
「そう……」
なんだか頭痛をおさえるように、星崎さんはこめかみに手を当てて、
「きみがよくても、その恰好でいられるとなんだか、こっちが落ち着かないな」
その言葉が絶妙にわたしの中のなにかをくすぐります。
むき出しの素足で彼に近づいて、すりすりと、頬を彼の腕に擦りつけてみます。
「星崎さんー。わたしを好きにしてくださいー」
「こら、からかうんじゃない」
ぐぅぅ。
こら、わたしのお腹の虫さん、空気を読んでください。
ほら、星崎さんがすっかり通常の穏やかなおにいさんモードに戻って思案してしまっています。
「考えていれば、夢ちゃんは朝からなにも食べていないんだよね。何も用意してないし。弱ったな。あるもので作るしかないか」
左の肘に右手をかけ、ポーズをつくります。
「わたし、お手伝いします!」
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