第79話
本の中の動物園を抜けた先にひっそりと鎮座していたのは、がらりと趣が異なるエリアだった。オレンジ色と黒色の縞模様のテントをくぐると、天井からぶら下がっているのはこうもりたちやほうき。天井からぶら下がった黒い布に橙の字で『魔女たちの集会所』と書かれている。
「なるほど。本の中の世界には、こんなところがあってもおかしくないわけだ」
感心したように呟く幾夜にたいして、文学博士はやや不満そうである。
「でも、こんな怖い感じにしなくても。本の中にはいい魔女さんや魔法使いさんだってたくさん住んでるのになぁ」
言われてみればそうかと、幾夜は納得する。職場の本屋でも女の子に向けた魔女が登場するアニメや物語の本を手にする機会があるが、それらの主人公である今どきの魔女っ子はカラフルなドレスもアクセサリーも平然とつけてにっこり笑っている。当然手にしているのもおどろおどろしい杖などではなく、星やハート型の宝石がたくさんデコレートされたステッキで。
「夢ちゃんの憧れる魔女は、かわいらしい魔女さんなのかな」
そう言うと、夢未は夜空をかたどった天井をぐるりと見渡し頬に指をあてた。
「かわいい小さな魔女もいいけど、ちょっとおしゃれだったり謎めいてたりする、大人の魔女さんもすてきです。例えば――」
言いかけて、目の前に見えてきた棚に瞳を輝かせる。
「星崎さん! 魔女や悪役たちの落とし物です!」
妖し気な紫の布をかぶせてあるその棚には、三つのアイテムが置かれている。
柄がオウムの形をしたユニークな傘と、『時限ネズミニナール』と書かれた札をつけた瓶、最後に古風な装丁の鉄砲だ。なぜか傍らに小さな小瓶が添えてあって、『pepper』(こしょう)と書かれている。
「問い五も、落とし主と落とし物を結びあわせる形式なのかな」
「え? あ、ほんとだ!」
あわてて夢未が視線を落とした謎解きキッドにはこう書かれていた。
⑤ オウム傘を正しい落とし主に届けてあげてください。
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