第72話

「星崎さん、問い一のポイント地点です」

 謎解きキッドを確認するのも忘れていない夢未は、その前で立ち止まる。

 問い一と書かれた、そこにはこう書いてある。


① 仲間外れは何色?


・一度履いたら踊り続ける靴

・プリンス・エドワード島のロマンチストの女の子の髪

・オズの国からカンザスへ帰る靴

・おたふく風邪のジュディに、あしながおじさんから届いた花


答え 〇〇12


「おかしいです……!」

 謎ときキッドを握り締めつつ、夢未は眉をしかめる。

 第一問目から、自他ともに認める文学少女をもうならせる難問だったらしい。


「『一度履いたら踊り続ける靴』、これはアンデルセンの『赤い靴』ですよね」

そうだね、と幾夜は頷く。

主人公の少女が虚栄心から買った赤い靴は、履くと永遠に踊り続ける……恐怖と戒めを誘う物語と言える。

「プリンス・エドワード島の女の子、これはきっと赤毛のアンです」

「それも正解だ」

 たしかに赤い壺の上には、ドレスを見にまとい赤い靴を履いて踊り続ける少女の絵も、真っ白い桜の花咲き乱れる島で、ボストンバッグを持って赤い三つ編みを垂らしている女の子の絵もある。

 だが夢未の眉は餌にありつけない子犬のように下がったまま。



「オズの国からカンザスへ帰る靴は、『オズの魔法使い』のドロシーの靴。これもルビーの靴だから赤だし、『あしながおじさん』で主人公のジュディにあしながおじさんが送ったのは真っ赤なバラの花なんです」

 文学少女はうう~と頭を抱え、絶望にうずくまる。

「みんな赤じゃない。仲間外れなんかないよぅ」

 その姿がほんとうの小動物のように愛らしくて、幾夜はついヒントを与えてしまう。

「天井からぶら下がっている絵画を見てごらん、夢ちゃん」

 夢未はしぶしぶ頭から手をどけ、むくっと顔を起こして立ち上がる。

「キットの項目の中に一つだけ、赤の壺の上に絵画が描かれていないものがある」

「……あ」

 そう。

 赤い壺の上にある絵画の最後の一つは、寝間着を着た少女がベッドで真っ赤なバラの花束を抱きしめる図柄だ。

「じゃぁ、仲間外れはもう一つの、『オズの国からカンザスへ帰る靴』? でもこれも赤だし……」

「ほんとうかな」

 幾夜は首をかしげてみせる。



「ためしに、そのシーンのイメージを頭の中に描いてごらん。どんなものが映ってる?」

「うーん」

 夢未は律儀に目を閉じて、精いっぱいその絵を頭に浮かべる。

「……やっぱり、ドロシーが履いてるのって、ルビーの靴です。昔の古い映画で。きれいなドロシー役の女優さんが――あっ」

 口元に手をあて、夢未は声を上げる。

「わたしが覚えてるのって、昔見た映画の記憶でした」

 幾夜は微笑んでうなずいた。

「映画や舞台では、ドロシーがカンザスに変える靴はルビーの靴となっていることが多いけれど、原作ではじつは違うんだ」

 彼女を連れて、幾夜は数歩歩を進める。

 行きついた先は別の色のエリア。その上に描かれた絵画の中に――。

「あっ」

 ブリキ、ライオン、かかしの仲間に囲まれて、カンザスの家に帰るために靴を前にしている少女。その靴の色は――。

「銀だ! そう、本の中ではあれ、銀の靴だったんだ!」

 夢未は謎解きキッドに受付でもらったペンで書き込んだ。


答え ぎん《12》色


「さすが児童文学エキスパートの星崎さん。順調な滑り出しでしたね。これは幸先がいいです」

 スポーツの実況中継のような口調で言いながら、夢未は基調となる色が虹色の順番で配置されている絵画を眺める。

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