第69話
夢の国へいたる道は容易なものではないらしく、山道や急カーブをいくつも超えた先に、淡いオレンジと黄色、桃色のレンガで造られたレトロなその建物はようやく顔を見せた。
淡い紅色のオキザリスやオレンジの線が入ったレモン色のカレンデュラ。
冬の花々が彩る花壇を超えた先に、夢の国児童文学館の入り口がある。
扉のデザインから、大分趣向を凝らしたものであった。
「わぁ、すごい! ドアがハイジになってる!」
アルプスの雪山が朝日を浴びてバラ色に輝くさまを、白から桃色、赤色のステンドグラスで表している。そこに点在する子やぎたち。
「ステンドグラスにヒロインは不在なのに、モチーフになっている作品を当てるあたり、さすが文学少女だね」
「あたりまえです! 星崎さん、写真、写真」
夢未は早くも興奮して、白いバッグからスマホを取り出している。
幾夜は肩を上下させた。やれやれ。最初からこの調子で体力が持つかどうか。
「はいはい。撮ってあげるから、貸してごらん」
右手を差し出すと、夢未ははにかむように首をかしげて、スマホを後ろに隠した。
「あの。……自撮りなら、友達に教えてもらって、得意なんです」
「それでも、人にやってもらったほうがよく撮れると思うんだけど」
「いえ。今のスマホの機能、すごいので」
「いや、でも」
スマホを奪い合った末、夢未が微妙な笑顔のまま静止した。
「星崎さんは、わたしと映るの、いやですか」
数秒後、幾夜は息をつく。
「わかったよ。いっしょに撮ろうか」
「ばんざい。星崎さんに勝ったー」
夢未が片手にスマホを持ったまま、両手を上げた。
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