第3話

 といって学校がいいわけじゃない。

 今は中二の春。

 クラス替えがあったばかりでまだ教室には馴染めていない。

 人見知りで、誰かに話しかけるの苦手だから、教室でもなんとなくぽつんと一人でいるんだよね。

 ……居場所がないなぁ。

 これといって打ち込んでいることも、大好きな友達だっていない。

 わたし、ここにいたってしょうがないんじゃないかな?

 ケージに入って、里親さんたちを待つみんなに話しかける。

「さみしい?」

 わたしの問いかけなんておかまいなしに、みんなご飯に夢中だ。

 でも、みんなの答えならわかる。

「あたりまえだよね。なかなかもらってくれる人が見つからなくて。わたしももどかしいよ」

 水にくちばしをつけていたピッピが、きょとんと小さな頭を上げた。

「わたしも、みんなといっしょだよ」

 居場所がないのに、いなくちゃならない場所はある。

 そんなふうに重い現実を認識しただけで、思い出したくない記憶が自動再生のように頭に立ち上ってくる。

 昨晩ちょっとだけ、学校がゆううつだなって、一言、言葉をこぼしてしまって。

 そうしたら、それまで言い合いをしていた両親がいっせいにこっちを見て。

未兎みと。情けないことを言わないで。どこへ行っても同じなの』

『そうだぞ、与えられた場所でがんばらないといけないんだ』

 記憶の中で眉をつり上げる両親に、べっと舌を出す。

 ずっとけんかしてるくせに、こんなときばっかり結託して。

 はぁとため息をついて、意識を目の前の空間に無理やり戻そうとする。

 人間って、たいへんだ。

 本音を言えるのはここにいる動物のみんなだけ。

 窓から差し込む陽射しに照らされるように、心にある願望が浮かび上がってくる。

「……動物になりたい」

 ぽつりと口に出すと、その願望は淡い色をした風船のようにふくらんでいく。

 うさぎがいいな。

 前足で草原を蹴って、捜しにいくんだ。

 わたしの居場所。


 ずっとさがしてた居場所 ようやくたどりつけた


 心に浮き上がった単語に、きれいな歌声がかぶさってどきっとする。

 考え事をしながら、いつの間にか二階のリビングまで来ていた。

 なんとなくテレビをつけて、ソファに座っていたら、この歌声。


 男性にしてはちょっと高めのアルト。一度聴いたら病みつきになるくらい澄んだ、すてきな声。


 しまった! 『エクレール』が出る番組、未チェックだったなんて。

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