第20話

 次の日の昼休み。教室の窓側に、夏陽を呼び出した。

 周りをうかがい、ぐっと声を落とす。

「図書館で会った男の子。やっぱり、純だったよ」

 夏陽はふいに顔をこわばらせると、こっちに身を寄せた。

「純って、『エクレール』の純くん?」

「うん、その純」

「わかった。そこまではいい。……でも」

 窓側の手すりを掴んだまま腕を伸ばして身体をそらし、すーっと息を吸うと、夏陽は一気にまくしたてた。

「なんで花乃がテレビ局に誘われるのっ? おかしくない? うんおかしい! なんかの陰謀だ! わなだ!」

 わっ。教室にいた何人かの子が、こっち見てる。あわてて人差し指を口に当てて、夏陽をしーっとなだめる。

「小説のための取材で、行かせてもらえることになって」

 正直、あたしにもなにがなんだかわからない。

 手すりを両手で持ったまま、夏陽は身体を揺らす。

「ずるいずるい! 一人だけテレビ局に行くなんて! しかも純くんの案内つき? なんだそれ!」

「あたしもそう思ったんだけど」

 あぁ、やっぱりこの流れになるのか。

 少し迷って、続ける。

「なんていうか、夏陽に黙ってるのはもっと、ずるい気がして」

 つたない言葉でそう言うと、夏陽はこっちを見て、ふっと微笑んで肩を上下させた。

 きらりと窓から陽射しが差し込んで、その瞳を照らす。

「テレビ局で藤波くんを見かけたら、その日の服装と髪型と声の感じを五分以上で説明して。そしたらチャラにしてあげる」

「外見の描写を五分以上って」

 小説の文章でだってきついよ、というと、夏陽は長い人差し指をあごにあてて、ふいにこっちを見た。

「だったら、純くんは?」

 とっさに意味が理解できずへっ? とまぬけな声を出すと、夏陽にぐっと顔を近づけられる。

「図書館で話したんでしょ。どんな感じなの?」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る