番外編1 はれ

【番外編】はれ

◇◇◇◇


「夏休み、どうする?」



帰り道、ハタノに聞かれた。



今日は終業式で、保健室の大掃除も終わらせて、それでもいつもより早い時間帯の河原を二人で歩いていた。



「どうするって?」


「夏休みも一緒に勉強する?って話」



今年、受験。


ハタノと同じ高校を受ける。



実は意外にハタノは勉強できたことが判明して、頑張らないといけないのは私の方。



「私と一緒に勉強してたら、多分ハタノが勉強にならないよ?」


「んー、そんなことないと思うけど?」



河原の土手でテキトーなところで座った。


ハタノは近くの自販機まで行って、コーラ二本買ってくれた。



そのうちの一本を受け取った。



「ありがとう」


「おぉ」



私はカバンからタオルを出して頭に掛けた。



「え?何してんの?」


「日焼け防止。マジで死ぬから。熱い!焼ける!」


「でもなんかタオル頭に掛けてるの……バアちゃんみてぇ」


「は?ケンカなら買うよ!!」


「売ってないよ!!」



ハタノはゲラゲラ笑う。



夏が嫌いってわけじゃないけど、四季のそれぞれの良いところと悪いところがあって、夏は夏で好きだけど、熱すぎはムリ。



ハタノは……夏が似合う。



「何?俺、なんか顔に付いてる?」


「あ……いや、ハタノって夏っぽいよなーと思って」


「なんで!?初めて言われた!!」


「なんでって……さぁー、多分」


「多分?」


「金髪だから」


「それだけかよ。シミズってワケわかんねー」



短いフワフワの毛で、キラキラとしているハタノの髪。



……触りたい、かも。



ハタノがもう一度覗きこんでくる。



「なんだなんだ?やっぱり何か付いてんのか?俺の顔に」



タオルで頭を隠してるせいで私の顔もちょっと隠れているから、ハタノは余計に覗きこもうとしていて……


なんだか……かなり……



「ち……近いよ、顔」



私がそう言うと、ハタノは一瞬キョトンとした目で私をジッと見つめていたけど、急に顔を真っ赤にさせて離れた。



「ち……近くねぇよ!シミズの自意識過剰!!」


「じ…自意識過剰じゃないし!!ムカつく!!」


「いや、先にシミズが見てたんじゃんか!俺のことジッと!!」


「私は顔を近付けてないもん!!」


「俺だって近付いてはないって!!」


「私はただ……」



ハタノの髪に触りたいって……



って、言えないよ!!



「……ハタノは金髪だから…熱くないんかな……って」


「へ?」



黒は熱を吸収して、白は反射して……って、どっかで聞いたことあるけど、どこか忘れた。


ハタノは不思議そうに自分の頭を触った。



「いや……普通に熱いよ?」


「でも黒髪よりかはマシなんじゃないの?」


「えー……どうだろ?」



ハタノは頭を下げた。



「熱い?」



私が触りやすいように下げられたんだってわかって、急に緊張した。


ま……まさかの触れるチャンス!?



少しだけドキドキしながらゆっくりと太陽で光る髪に手を近付けた。




温かい。



「な?冷たくはねぇだろ?」


「そう……だね、普通に熱い」



意外に直毛でしっかりとしているけど、男の子の長さである短さは大型犬を触っているような柔らかさがあった。


なんだか……少し、嬉しい。


しばらくずっとナデナデしていた。



「……えっと、いつまで触ってんの?」



上目遣いで私を見てくるハタノは本当に大型犬みたいで笑った。



「いいじゃん、別に」


「なにそれ」


「なんかこうしてるとちょっと優越感」


「なんだと!?」



お互いにケラケラと笑う。


そうしている内にハタノがバッと私のタオルを頭から取った。



「うぎゃっ!やめて!!熱い!!つーか焼けたくないから!マジで!!」


「シミズ、マジで発言はオバサンじゃん!!」


「うるさい!返せ!!」



タオルを奪い返そうと手を伸ばすけど、ハタノがキレイに私の手からタオル逃がすように遠ざける。



ゲラゲラと笑うハタノがムカつくけど、嫌な感じじゃないから「ムカつく!」と言いつつも私も笑う。



いよいよお尻をあげて、立ち上がってでも取り返してやろうかと思った時にタオルを持っていない方のハタノの手が伸びてきた。


男の子の手が私に触れている。


顔が沸騰した。



「あっち!シミズの頭、あっちぃ!!」


「あ……暑いよ!!言ってるじゃん!!」



ハタノの手がワシャワシャと髪を乱す。



「や……やめてってば」



わかってんのかわかってないのか、ハタノは私に気にすることなく笑っている。



「おー、黒髪のが確かに熱い気がする」


「バカ!!タオル返してってば」



なんか汗をかいてきた。


じゃれてる場合じゃないのに、ハタノは相変わらずケタケタ笑った。


もう!!


そうこうしてたら、ハタノの手がスルッと動いた。



その指はセミロングの毛先まで流れた。



「あ……毛先は冷たい」



私の髪に触れ、毛先を見つめているハタノが間近にいる。



いつもの慣れ慣れしいハタノ


え……なんかハタノ、妙に色気ある仕草……なにそれ。


心臓がドキドキドキドキしてしょうがない。



もう何の言葉も思いつかず、口がパクパク動かすだけだった。



私の毛先をつまんでいたハタノがふと目線を上げるから、目が合った。



……近い。



ハタノもハッとしたように目を見開いた。



お互いに固まった。


見つめ合う目は……





チリンチリーン……




すぐ後ろで自転車が横切った。


その音で、私もハタノもビックリしてパッと顔を背けて、手も離した。



「こ……これ、タオル返す」


「う……うん、ありがと」



目も合わないまま、ハタノからタオルを受け取った。



ハタノは買ったコーラを開けて……



「う……うおっ!?」



炭酸が溢れた。



「わっ……、バカ!!何してんの!?」


「いやだって……俺も知らねぇよ!!」



中三にもなって、二人して昼下がりの河原でアワアワした。



犬の散歩しているおじいちゃんが不思議そうに私達を見て通り過ぎ、それを二人で見て、顔を見合わせたあとなんか可笑しくて二人同時に吹き出した。



何が可笑しいのかはワケわからないけど、なんとなく……まぁ、いっか。



「あーぁ、シャツも濡れたし帰るか」


「夏だし、すぐ乾くんじゃない?」



立ち上がったハタノは私に手を差し出した。


ハタノの手を掴むと、ハタノは私の手を引っ張り、立ち上がるのを手伝ってくれた。



スカートに付いた草や土を軽く払った。



「じゃあ、帰えっか~」


「え……ちょっと、ハタノ」


「何?」



ハタノは手を離さないまま歩き出したのだ。


自然とハタノに引っ張られる形となった。



ハタノと手を繋いだまま、歩いた。



ハタノはなんてこともないような顔で「何?」とか聞いてきたけど……その顔は少し赤い気がした。



そして歯を見せて、笑っていた。



「シミズ、行くぞ?」


「……うん!」



まぁ、いっか。


ハタノの手を握って隣を歩いた。



「なぁ、シミズ」


「何?」


「夏休み」


「あぁ、勉強会?」


「――もあるけど」


「は?何?」


「……どっか遊びに行く?」


「いいねー」



今日も晴れ。

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