あめ

あめ


「これ……洗濯したから。……ありがとう」



いつものように、朝迎えにきたハタノにハンカチを返した。


ついでにアイロンもかけてある。



ハタノはハンカチを受け取らず、私の服装を見る。



Tシャツにジーパン。



「……まだ学校行く気になんねぇの?」



玄関で首を傾げるハタノに溜め息。



「行かないっての」


「……えー」



眉をひそめてハタノは残念そうな声を出すが、行かないったら行かない。



「あんたこそ、早く学校行きなよ」


「えー……」


「……行かないの?」


「シミズが行かないなら俺も行かない」


「……はぁっ!?」



まさかこいつ、遅刻やサボる口実に私を使ってんじゃないでしょーね!?



なんで私なんかの迎えにくるのか、推測した理由を考えただけで、なんかムカッときたからハタノを睨んだ。


だけどハタノは私の視線にも気付かない感じで、さっきから自分の制服をパタパタと叩いている。



「……何してんの?」


「え?確か一個あったような……あ!!あったあった!!」



ハタノはズボンのポケットからあめ玉の袋をひとつ取り出して、私に向けた。



「はい!!一緒に学校行こう!!」



あめ玉を見た後、ハタノを見た。


思わずプッと笑ってしまった。



「花の次はアメかよ」



そんなんで釣られるわけないじゃん。


可笑しくてケラケラと笑っていてもハタノはまだ手を下げようとしない。



「いらない?」


「ははは、一応もらっくよ」



そう言って、アメを受け取った。


実はもらった花も二階の自分の部屋でちゃんと生けてあったりする。



恥ずかしいから黙っておくけど。



「ほら…早く学校行きなよ」


「……」



ハタノは学校へ行くことに折れない私に納得しないような顔付きで玄関のドアを開けた。



「……あ」


「……何?」


「あめ」



そう呟いたハタノの足元の地面に点々と染みが出来た。



今日は雨が降るって、確かにテレビでも言っていた。



お母さんがそれを見て、洗濯物を干さずに出ていった今朝を思い出した。


一人回想に浸っているところで、ハタノが振り返った。



「……シミズ」


「……は?」


「おじゃましまーす!!」


「はぁ!?」



ハタノが靴を脱いで、家に上がった。



「ハタノ!!学校は!?」


「俺、傘忘れたからさ!!」


「は!?」


「雨宿りさせて?」


「はぁ!?」



ハタノは悪びれることなく、リビングのソファーに腰掛けやがった。



「バカ!!あんた何寛いでんの!?」


「雨が止むまでだって♪」


「傘貸すから学校行って!!つーか私の家に居座んな!!」


「じゃあ雨が上がったら一緒に行こうか」


「しつこいっ!!」



ハタノは自分の隣をポンポンと叩いた。


来いってことか?



まるで我が家のような態度だな、おい!!



「シミズは学校行かない昼間は何してんだ?」



ハタノが普通に聞いてくる。


学校に行く気がホントになさそうだ。



私も諦めて、ハタノの隣に座った。



「別に……何も」


「何も?」


「そう。何も」


「ふーん」



テレビ見たり、マンガ読んだり、ゲームしたり、パソコン使ったり……本当に、『特に何も』って感じ。



「ハタノは学校行かなくていいの?」


「んー?」



ハタノは襟のボタンをいじくりながら、どこ見てんだって感じで、宙を見ている。



「俺も普段は学校行ってないようなもんだしなー」


「……サボんなよ」



ハタノは金髪頭を掻きながら笑った。



「いやー……俺にも深い訳があんだよ?」


「何よ、深い訳って」


「知りたい?」



ニヤッと笑う口元とジッと見てくる瞳に、なぜか言葉が喉につまった。



「……別にどうでもいいし」



そっぽを向くように顔を反らした。


なんか……近いって思った。



外はシトシトと雨が降って、窓に滴が伝う。



なんか急にハタノの隣に座ることに緊張してきて、居心地悪くなってきた。



早くどっか行ってくれないかな。


大体、なんでハタノは私の迎えにくんの?


一体、何の目的で……



なんで?


今まで何の関わりもなかったのに。


まるでストーカーだし。



……まさか?



ハタノを見ると、ハタノも切れ長の目を私に向けた。



ハタノ……私のこと、"好き"……とか?



じゃなきゃ、こんなに拒否ってるのにやってくるのに説明がつかない。



ハタノが、私を……




好き?




「……シミズ?」




名前を呼ばれて突如、顔全部がブワワァッと赤くなった。



そんな私にハタノはギョッと驚いたように目を見開いた。



「へ?な……何!?どうした?」



どうしたって聞かれても、私が自分自身に『どうした』と聞きたいくらいだ。


どうしちゃったんだろ、私。

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