でんわ

でんわ

次の日、お母さんが仕事に出てからインターホンが鳴った。



「昨日はすみませんでした」



インターホン越しの最初の言葉はハタノの謝罪の声だった。


すぐに切ったけど、また鳴らされた。


仕方がないのでチェーンをかけた状態でドアをちょっとだけ空けた。



「昨日はごめん。ついイラッときて、やってしまいました」



チャラい外見のくせにションボリと背中を丸めたハタノがそこにいた。



「反省したし、何もしないって誓うから学校行こう」



私は学校に行かない気マンマンなので思いっきり、Tシャツにジーパンと普段着である。


学ランを着ているハタノとは正反対だ。



「……もういいから、私のことは放っておいてもらえない?」


「だからごめんって。昨日言ったのは嘘だから」


「だから……」


「ホントはちょっと勃ちました」


「ちょ…っ!?そういうことじゃ……てかそんなんは言わなくていい!!お前はサイテーか!?今年一番のサイテーワード!!!!」


「だからごめんって」


「ますますお前と行きたくない!!」


「とりあえずこのチェーン外さない?」


「外すわけないじゃん」



もうドアを閉めようと思ってもハタノが足で止めている。



「だから何もしない。変なことも言わない。マジで誓うから!!」


「だから私は絶対学校行かないから!!」


「……なんで?」


「……」


「なんで学校行かないの?」



ハタノにそう聞かれて目を伏せた。



「ハタノには関係ない」


「……教えろよ」


「は?」


「聞きたい」



まっすぐに聞いてくるハタノに無意識に眉間に皺が寄った。


本当になんなんだ、こいつは。



「いいから帰っ…ー」




音が玄関に響いた。


着信音。


スマホの電源はこの数週間切っているから、私のスマホじゃない。



家の電話だ。


家の電話が鳴っている。



誰?


誰?


誰?


油汗が噴き出てきた。



「……シミズ?」



ハタノがすぐ近くで不思議そうにこっちを見ているのを感じる。



そうだ。


今はハタノがいるんだ。


少しでも弱いところを見せてはいけない。


大丈夫だ。


ちょっとしたセールスか……お母さんからかもしれない。



深呼吸してから、玄関側にある電話の受話器を取った。



「……もしもし?」




『てめぇ、シカトしてんじゃねぇぞ!?』



心臓が一気に冷えた。



「ミキ……」


『スマホ、ブチってたら済むと思うなよ!?』


「……ーっ」


『だからてめぇはブ…』



電話をすぐに切った。


それ以外、方法が思いつかなかった。


こんなことをしても、余計にこじれるってわかっても切ってしまった。



間髪入れずにまた電話が鳴る。



家に響く音。



受話器を上げて、すぐに切った。



「……あ」



またすぐに電話が鳴った。



「いやあああぁぁっ!!!!!!」



頭を抱えて、その場にしゃがみこんだ。



電話が鳴る。


反響する。


恐怖で頭の中で更に響いて聞こえる。


なんで?


なんで家の番号がわかるの?



……もしかして誰かから聞いて…とか。



どうしよう。


どうしよう。



どうしよう!?



だって学校行くのやめても、スマホがずっと鳴って、スマホを切っても家にも電話が来て……



どうしよう



私は


一体



どこに逃げたら。




それとも……逃げれない?



私はどこにも…




「シミズ!!!!」



うるさい電話の隙間から私を呼ぶ声が聞こえた。



「シミズ!!!!」



チェーンをかけているドアをハタノが精一杯に開けようとしている。



鳴り止まない電話。



「い……いや…」




「シミズっ!!!!」



ハタノがもう一度叫んだ。



ドアの隙間から必死に手を伸ばしてきた。



「来い!!」


「…っ」


「シミズ、こっち来い!!」



涙を流した私はチェーンを外してドアを開けた。



ハタノは私の手を掴んで、走り出した。



裸足だったけど気にならなかった。



私はそのまま家から逃げ出した。

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