一話

兄貴の論文

1話.1 兄貴の論文

─一話─



例えば、臓器移植をしたら人格が変わってしまうって話を聞いたことないか?


目や、膵臓や……


臓器を提供してくれた人物の好みや行動に似ていくっていう…


でも性格が変わるのは臓器のせいじゃなくて、手術のトラウマや麻酔の副作用が原因であって…



……って、ちょっと、ゆず!!ちゃんと聞いてるか!?



まぁ、続きを聞けよ。


しかも、そんな前情報が現代に飛び交ってるから、手術後は人格が変わるんじゃないかっていう思い込みが余計に助長させてだな…


だからほぼ心理的原因だと言われている



でもな!!ゆず!!ここからが面白いところなんだが!!



そうしたことだけでは説明しきれない事例だって、この世にたくさんあるんだ!!


臓器の細胞にも脳のように記憶を溜める場所があるんではないかって言われてるんだ!!


ドナーの記憶がそこで生き続けるんだ!!


特に心臓!!



心臓には脳と同等の神経繊維があって、大脳皮質には敵わないが、心臓も物事を記憶出来るかもしれないんだ!!


もちろん心臓の神経繊維は自律神経だから本来、記憶の機能はないんだが、俺の研究では…



は?言ってる意味がわからないだと?


バカ!!そこらへんはグーグル使ってでも勉強しろ!!



お前は俺の妹なんだから!!





そう言って、顔いっぱいに笑って、目だって少年のようにキラキラさせながら話したのは、兄貴の論文内容だった。


頭の悪い私には兄貴の語る理系おとぎ話なんて、まるで興味なかった。


それでも『人の体について証明させるというのは、遥かに難しい。だから何が起きるかなんてわからないんだ。』っていう話の最後まで聞いてやった。



そんなんでもたった一人の兄貴だったんだから…


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