うらぶれ魔導剣士の無限銃唱(インフィニテット)
无乁迷夢
異世界のプロローグ
前奏 とある異世界の酒場より
「――先輩、あの人って今頃どこで何してるんでしょうか?」
「あいつだぁ?」
「あの人ですよ、最強の元英雄さん」
「あー……例の
壁掛けランタンの
「はぁ。世界を救った英雄でもそんな目に遭うものなんですね」
「そりゃあそうよ。どんなにすげぇ偉業を成し遂げたっつってもよ、奴はあれだけの事をしでかしたんだからな」
そう言って、先輩傭兵は木製の樽型ジョッキを目の高さまで上げて酒を
「うーん、自分も一度だけ一緒に仕事をしたことがありますが……彼は噂に聞くような極悪人には見えませんでしたよ?
「けッ! 新入りのお前ぇには分かんねぇだろうな。んなの外面ばかり取り繕ってよお、蓋を開けりゃあ中身は極悪非道なクソ野郎だったっつーオチよ。騙されてたのさ、俺も、お前も、国民も、そして……あの方もな」
「先輩……」
酒に映る自分の顔を見つめる先輩傭兵の眼差しはどこか悲哀を帯びていて、後輩傭兵は思わず口を
それから数秒間の静寂の後、後輩傭兵は湿っぽい空気を変えようと、目の前でグラスを黙々と磨き上げるバーテンダーに話を振ることにした。
「あの、マスターは元英雄について何かご存知だったりします?」
「……私ですか?」
マスターと呼ばれたのは
「飽くまで
そう前置きして自分の身の上話を始めた。彼は親友だったと言う。
「これは昔の……とは言っても七年前の出来事ですがね。私はある任務の遂行中、例の組織に属していた少年に出会いました。弱冠十二歳ながらその実力は世界屈指、
「つまりその頃から片鱗の閃きを見せていた、と。……あ、そういえば最年少の〈
「ええ。まあ彼はその中でも特殊なポジションにいましたが、彼の人間性を考えれば納得できますよね」
バーテンダーは軽く笑ってみせる。
が、黙って話を聞いていた先輩傭兵はそんな二人の会話がお気に召さなかったらしい。酒を一気に飲み干すとジョッキを勢いよくテーブルに叩き付けて、
「ちッ、英雄だか何だか知らねぇが、
バーテンダーを睨み付けて言った。そんな興奮気味の上司を「まあまあ落ち着いて」と後輩が
「先輩、そういう僕達だってこうして仕事をサボって昼間から酒を飲んでるじゃないですか。日々の業務すら全うしていないんですから
「んなっ……ば、馬鹿言ってんじゃあねぇ! ここ、これはだな、その……さ、最近
「……」
タワーのように積まれたジョッキをチラリと経由してから、先輩に冷たい視線を送る後輩傭兵。
「う、うるせぇ! んならさっさと仕事に戻りゃあいいんだろ! マスター、金はここに置いてくぜ」
男はポケットからしわくちゃの紙幣と銀貨を数枚取り出すと、それらを乱雑にカウンターテーブルに置いて立ち上がった。
「ハハッ、先輩ってば職務怠慢を認めましたね。何一つ守ることができないのは先輩自身ってオチで良いですか?」
「バーロー!
「痛っ! ちょ、ちょっと待ってくださいよ〜」
そんな彼等に、
「またのお越しをお待ちしております」
と、マスターは丁寧にお辞儀をした。
傭兵が暴れたおかげで静まり返った店内も二人が出て行くとすぐに再び騒がしさを取り戻す。仲間と酒を呑んで
「……」
マスターの視線の先、バーカウンターの上に残された硬貨には国花であるカルミアの花が描かれている。
「……自惚れて国を裏切り落ちぶれてしまった元英雄、なんですって」
小さく呟いて
「差し詰め……うらぶれ勇者ってところですかね――」
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