第8話:深く美しい青

目の青い綺麗な猫と長く暮らしていた。


その失った猫を膝に乗せ、なぜかお年寄りばかりが乗っている電車に乗っていた。

皆、穏やかに笑っている。

電車が停まり、たくさんのひとたちが降りていく。


「あなたも乗り換えよ」「向かいのホームの電車よ」「さあ早く」

そう言われた私は慌てて立ち上がり、膝の猫を腕に抱いて、お年寄りたちの後ろをついて行く。

気持ちのいい日差しのホーム。優しく吹く風。

猫はそっと腕から飛び降り、その深く澄んだ青い目でじっと私を見つめてから、乗ってきた電車に戻っていく。


「もう電車が発車するわよ」「あなたも早く乗りなさい」「猫はもういないわ」

向かいの電車に乗り換えた、たくさんの人の声がする。

とても長く暮らしてきた猫。発車を知らせる電車のベル。

この先をひとりで行くことはもうできない。

とても迷う。息苦しい。


乗ってきた電車に戻り、必死に猫を探す。何度も何度も猫の名前を呼ぶ。

一番隅の座席の下、背を向ける見慣れた美しい毛並み。

「はやく行かないと」「こっちにおいで」「いっしょに行こう」

猫の背中が険しくなる。決して青い目は私を見ない。

そうだ、あの子はもういないはずだ、ずっと前に。

そう思った瞬間に電車の扉は閉まり、ゆっくりと来た線路を戻って走り出した。


目が覚めると、大きな声で泣いていた。


多分、あの時、乗り換えなくてよかったのだと思う。

朝起きたらイカだったとしても、もう少し諦めずに、迷い考えよう。

目の青い綺麗な猫が、あの時の私を助けてくれたのだから。

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朝起きたらイカだった。 花尾歌さあと @atoryo

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