第5話:橙色の薄皮個室

もう忘れそうだったが、そういえばイクラに入ってしまったこともある。

あれも年末だった。

ついうっかり、お正月用の塩イクラを買い忘れたのだった。


目が覚めると、視界のすべてが うすいオレンジ色だった。

ああ、こりゃイクラだな…。 すぐにそう思った。

ハチの巣と、Excelのセルに収まった経験が生きた瞬間だ。


私くらいになると、もうそんなには慌てませんよ。

そう思いながら、オレンジ色の中で寝ることにした。

せまい個室も、個室のたくさんの集まりも、すでに経験済です。

息苦しさもありません。

ちょっと得意げに、ねっとり、また寝ることにした。


忘れ物をしても、慌てなくなるのが、おとなの経験というものだ。

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