朝起きたらイカだった。

花尾歌さあと

第1話:パチンコ玉味

朝起きたらイカだった。

正確に言うと、朝起きたらイカになっていた。

漢字で書くと烏賊である。まじか…と思った。

心当たりはある。昨夜は荒れていた。

もう死んでしまいたい、イカになりたい、とは言った。

言ったが、言ってしまったが、普通 ならないだろう。


9月に入り、涼しくなってから、体調が思わしくない。

毎年そうだ。この時期は必ず体調が悪い。

イレウスだ。わかりやすく言うと、腸閉塞。

若いころからたくさんの手術をしてきたせいで、腸が超・癒着してしまった。

年々ひどくなる。少しウケを狙ってしまった。はずかしい。


食事はひとりまえを食べることができない。

一人前どころか、そもそも食べてはいけないものもたくさんある。

海苔、海藻、ひき肉、かたい肉、ラーメン、つけ麺、パン。

とうもろこし、あずき、貝、こんにゃく、いか。

食べられないわけではない。全部好物だ。寧ろ食べたい。

けれどうっかり食べた後、消化が始まる2~3時間後に、必ず具合が悪くなる。

腸を通過することができず、詰まってしまうのだ。のたうちまわり、何度入院したことだろう。


腸閉塞気味になってくると、きまって食べるものの味がおかしくなる。

パチンコ玉みたいな味、そうとしか言いようがない。

ちなみにパチンコ玉は食べた経験も、舐めた経験もない。


そんなこんなで、ここ2週間ほど、あまり食べられない日が続き、あまり食べていないにもかかわらず、腸閉塞感は一向に治まらない。

今日食べたものが詰まっているとも限らない。何日か前に食べたものが通過障害を起こしているのかもしれない。


だから思わず言ってしまった。

「イカになりたい!」

つい うっかり。とても苦しく、悔しかったからだ。

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