第9話 牡丹誘拐[前編]

6月に入り、最近まで殺人事件があったなんて嘘のように皆普通に生活している。

 そういう俺自身も平和ボケしていた。

 学園で牡丹に告られたからかも知れない。


 ――5月下旬――

 

「お兄ちゃん、一緒にご飯食べよ〜!」

 ハイテンションで燐がいつも通り昼食に誘って来たので、渋々誘いに乗り、校舎前の広場で3人で食べていたときに、牡丹が浮かない顔をしていたので話を聞いた。「牡丹?どうした?そんな浮かない顔をして。」

すると、牡丹は顔を上げて、

「私は戒斗のことが、ずっと好きです。」

「それは、家族としてか?」

 恋愛対象になるのは御免なので聞いた

「いいえ、異性として、一人の男性としてすきです。」

 ボタンが恥ずかしそうに言う、

「だから…その…付き合ってください。」

 牡丹は頭を下げた、それを見て燐が一言

「返事は?」

 ボタンと燐でこちらを見てくる、視線が痛い。

「分かった良いよ好きにして……」

 半分諦めて言ったが、牡丹は嬉しそうにこちらに抱きついてきた。横から抱きつかれ、勢いを殺せず倒れてしまい牡丹が俺の上に被さるようになり、胸にたわわな物が当たる。すると牡丹は起き上がり。

「ごめんなさい。」

 と倒れた俺に手を差し伸べた。

 スッと立ち上がり服に付いた土を払った。


「ターゲットを捕捉、現在兄と接触中……」

 そう言うと、無線機の向こうから

「確認した。そのまま監視を続けろ。」

 ノイズ混じりの声で監視の続行を言われた。


――帰り際――


 電話で呼び出された俺は先に帰っていた。

「戒斗一緒に……あれ?」

 牡丹が教室に来るが見渡しても誰も居ない

「うちのクラスに用事?」

 たまたま通りかかった演劇部の千秋が見渡す牡丹に話しかけた。

「いえ、戒斗に用事があって…」

 「嗚呼〜勇者くんね〜何か電話で呼ばれたみたいだったよ、まぁ血相変える時点でかなりの大事だね。」

 勇者と言う渾名あだなに動揺しつつ、牡丹は先に帰ったのを把握し、一人帰路に着いた。

「目標、一人で帰宅を開始、作戦の開始を要請。」

「了解、作戦を実行せよ。」

 黒いバンから作業着を着た体つきの良い男性が3人降りて来て牡丹を囲んだ。

牡丹は咄嗟に戦闘態勢に入ったが遅く3人に抑え込まれ、バンに乗せられ攫われた。

「実行隊本部に通達作戦成功、繰り返す作戦成功。」

 牡丹は手足を拘束され目隠しと猿轡さるぐつわをつけられ抵抗出来ないように麻酔を打たれ、とある研究施設に運ばれた。

 一方で俺は電話で五十嵐警部に呼ばれ警察署で話を聞いていた。

「最近SUTが動いている、もしかすると、君を襲ったのは彼らかもしれない。また、君の家族にも影響が及ぶ可能性が有る」

 と言われ慌てて家に帰った。

 すると、燐から、牡丹の帰りが遅いと言われた。

「一足遅かった!」

 怒りに任せ壁を叩いた。

 SUTの存在自体は知っていた。しかし、牡丹が襲われるなんて思いもしなかった。

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