一角獣と揶揄されて

ぽぽ

第1話

 私には、角が生えている。

 額の真ん中のあたり、そこから、一本の角が。

 原因はわからない。生まれた時からあり、新発見の先天的疾患とのことだった。DNAがどうこう、水平遺伝がどうこうと研究者は言っていたが、半分もわからなかった。

 小さい頃はよく研究室に連れられ、テレビにもよく出ていたが、今ではほとんど行かなくても良くなった。そのおかげで高校にも行ける。

 しかし、研究室にいた時の方がよかったなと思う。道行く人には奇異な視線を向けられるし、高校では……

「おい、一角獣」

 鼻につく声で、女が言った。髪を金色に染めて、耳と舌に穴を開けた、いかにも脳が足りてなさそうな女。

 一角獣、というのは私のことだ。ユニコーンのことらしいが、そうではなく一角獣と呼ぶのは、私を人間ではなく獣だと言っているということだ。

 しぶしぶ女の方を向くと、案の定スマホを構えていた。

「ハハッ、やっぱキッモ。ほんとに獣みてぇ」

 そう言いながら、パシャパシャと鳴らす。それに飽きると、女は別の人間のもとへ行き、私を嘲笑の的にした。

 それを見て、私はため息をついた。

 この角のせいで、私はいじめられ、差別され、嘲笑される。手術で取れないのかと掛け合ったが、角は頭の一部らしく、角を取ろうとすると脳も一緒に削ることになり、不可能らしい。

 つまり、私は一生この角と付き合っていかなきゃならない。その事実を再認識して、再びため息をついた。

 きっと、このため息の様子も、人間のため息ではなく、一角獣のため息と認識されているのだろう。

 休み時間が終わり授業が始まったが、私は今日も窓の外を見ていた。


 帰り道、やはり道行く人の視線はすべて異端なモノを見る目だ。「なんだあれ…」、「怪物みたい…」など、私に向けられる言葉もすべて異端に向けられるものだ。

 下を向き、ため息をつきながら歩いていると、私にかけられる声があった。

「あの、頭のソレ、どうしたんですか?」

 立ち止まって顔を上げると、男がいた。いかにもな好青年だ。だけど、どうせ私を笑いに来たのだろう。無視して再び歩き出した。

「その角、どこで売ってますか?」

 男はなおも話しかけてくるの。気が触れているのだろうか。このまま無視を続けても諦める気配はないので、しぶしぶ答えた。

「これは病気です」

 男はさらに目を輝かせた。

「へぇ~。いいなぁ。すごいカッコいいですよ。ユニコーンみたいに、幻想的で」

「……私が人じゃないって言いたいんですか」

「え、あ、いや、そう聞こえたのならすみません。でも、ユニコーンみたいってのは本当ですよ。すごく綺麗だ」

 男は、内容も話し方も子供のようだった。しかし、この角を綺麗と言われて、少し心が和らいだ。

「……そうですか」

 しかし、普段から人とコミュニケーションを取らない私は、そんな返事しかできなかった。

「もしよかったら、連絡先を交換しませんか?」

 そう言って、男はスマホを出した。普段なら断っている。なぜなら冷やかしでしかないだろうから。

 しかし……私は、不思議とスマホを差し出していた。私にプラスの感情を向けてくる初めての人だからかもしれない。

 彼は「また明日!」と言って、三叉路を右に進んでいった。

 私は左に進んだ。人と話した後だというのに、不思議とため息は出なかった。


 彼は、知れば知るほどおかしな人だった。

 私のことを好意的に思ってくれるのもそうだし、この角に異常なほど興味を持っているのもそうだ。

「私は一角獣と揶揄されている」。彼にそう言うと、彼は、「それは誉め言葉だ」と言った。君は獣のように強い、そう言っていた。

 そして、一角獣は、獰猛で、力強く、勇敢だという話があるとも言ってくれた。その言葉で、私にとって一角獣の存在は善いものになった。

 そのおかげで、私は自分に自信を持て、そして、今日も彼と一緒に帰路を辿っていた。

「その角、やっぱカッコいいよね」

 昨日も一昨日も言ったことを、彼は今日も言った。

「何回言うの、それ」

 クスリと笑いながら、私は彼に言った。

「でも、カッコいいのはホントだからさ」

 彼の言葉に嘘はない。というより、彼は嘘をつけないタチのようだ。だから私は彼の言葉を信じられる。

「僕も、一角獣になりたいな」

 その言葉と同時に三叉路に着き、私は彼と別れた。

 彼が見えなくなった時、一角獣はため息をついた。

 前までのような、世界への呆れと絶望のため息ではなく、彼に対する呆れと、明日も会えるだろうという希望からのため息だった。

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