第23話 策士からの挑戦状②
セバスチャンの屋敷は、彼の性格を映し出すように洗練された美学に満ちていた。
厳格さと芸術的な豪華さが調和し、伝統工芸やアートなど文化的にもこだわり抜かれたその空間は、まるで訪れる者の博識を試しているかの様だった。
ルミナスとしての仮面をつけたセレーナは、貴族的ではない壮麗優美なドレス姿に身を包んでいた。
応対に現れたセバスチャンへ向かい、静かに挨拶した。
「お招きいただき、光栄です、セバスチャン様」
「こちらこそ、レディ・ルミナス。あなたの噂は風のように広がっており、ぜひお会いしたいと思っておりました」
セバスチャンは優雅に微笑みながら、彼女に席を促した。その目は冷静かつ鋭く、セレーナの仮面の奥を見透かそうとしているように感じられた。
紅茶が運ばれ、しばし互いに探り合うような会話が続いた。セバスチャンはあえてセレーナには触れず、「ルミナス」としての面会に集中していた。
「ウィッチ結婚相談所の噂を耳にしました。実に興味深い活動をされていますね。既に3組の貴族の婚約を成功させたとか」
セバスチャンがそう切り出すと、セレーナは軽く頷いた。
「ええ。すべて、相応しい相手に巡り合うことができました。喜ばしいことです」
「……ですが、その3組全てが、貴族院議長の勢力に影響を与えるものでしたね。これは後々に、貴族社会に波風をたてることになるかもしれませんね」
その言葉に、セレーナは一瞬心臓が跳ねた。
やはりセバスチャンは、ただの婚活コンシェジュとしてのルミナスを見ているわけではないとわかる。
「私に、政治のことはわかりかねますので、おそらくそれは偶然の一致でしょうね」
「この貴族社会の成婚に、偶然などありえますかね」
「ならば、バイオレット様のご人徳の結果でしょうね」
その返しにフッと笑うセバスチャン。
「まあともかく……今日お招きしたのは、単に世間をするためではありません」
そう言うとセバスチャンは声のトーンを落とし、本題に移った。
「……ラインハルト侯爵家の縁談についてお聞きになったことがありますか?」
その名前にセレーナは驚いたが、すぐに冷静さを取り戻し、セバスチャンの目をじっと見据えた。
「ラインハルト侯爵家の縁談が、国防に関わるものであることは聞いておりますが……私にどう関係があるのでしょうか?」
セバスチャンは紅茶を一口飲み、ゆっくりと答えた。
「その縁談を円滑に進めることができれば、国境を接する帝国との関係改善に繋がる。つまり、貴女の知恵がこの国を救う鍵になるということです」
セレーナはその言葉に目を細めた。これは単なる結婚相談を超えた国家的な問題だ。しかも、セバスチャンはこの重要な役割を、自分に委ねようとしている。
そこへ突然キリコが口を挟む。
「まさかアリシア・フォン・ラインハルト令嬢の縁談ですか?!さすがにアレは不可能でしょう!」
不可能という言葉にセレーナは敏感に反応する。
「……興味深いお話ですね。でも私にその縁談を任せる理由はなんでしょう?」
セバスチャンは薄く微笑み、冷たい視線をセレーナに向けた。
「単純なことです。貴女は、この国の誰よりも人の本音を見抜く力を持っているから。そして、何より、貴女がそれを成し遂げるのを見てみたい」
セバスチャンの言葉には、深い興味と同時に、挑戦の意図が感じられた。彼は、セレーナがこの国家的な課題をどう解決するかを楽しもうとしている。
(まさか私に『婚活』で挑む気?……これは、面白くなってきたわね)
セレーナは内心の興奮を抑えながら、微笑んで答えた。
「では、その縁談に取り組んで見ましょう。アリシア様の本心を知れたならば、例えどんな縁談でも、私が必ず『成婚』させてみせます」
その言葉を予測していたかのようにセバスチャンは満足げに頷き、静かに微笑んだ。
「それでは楽しみにしていますよ、レディ・ルミナス」
セバスチャンとの緊張感あふれる駆け引きが終わり、
その後ろ姿を見送りながら、セバスチャンは不敵な笑みを浮かべていた。
(さあセレーナ……あのモンスターをどうやって御する)
その視線を背中に感じながら、臆せず歩き続けるセレーナ。
その仮面の奥の瞳には、次なる一手がゆっくりと浮かび上がっていた。
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