第19話※性描写あり

折れそうに華奢なフィレーヒアの体を、ショルカはそっとベッドに寝かせた。まるで壊れ物でも扱うような手つきだと、仰向けに寝ながら白皙の魔法使いは思う。

自分の心臓の音がうるさくなるのを感じながら、フィレーヒアは天井を眺める。逞しい体が、膝立ちでその細い腰に跨った。

王が、身に纏っていた正装を自ら解いていく。厚い胸板によく似合う漆黒のローブを脱ぎ、その下の白く清潔なシャツのボタンに手をかける。緊張を隠し切れない面持ちで、上半身を全て晒した。光沢のある褐色の肌が、豊穣の神のようだ。

ショルカはそのまま自らのズボンのベルトを抜き、下着ごと脱ぎ捨てた。膝立ちのまま器用なものだと、フィレーヒアは感心する。愛する人のガウンをはだけさせることもする前に、王は一糸纏わぬ姿になった。

「・・・最初に全部、脱いじゃうんだな」

「そういうものなんだろう?フィレーヒアがさっき、そうしたじゃないか」

――そういえば。美しい華は、先ほどの自分の振る舞いを思い出し、赤面する。勢いに任せて、随分なことをしたものだ。

「ケースバイケースだ。互いに脱がせ合うのも、なかなか楽しい」

「ふうん・・・そういうものか。確かにお前に脱がせてもらうのは、興奮しそうだ」

フィレーヒアの言葉を聞いて納得したように頷いた王が、脱ぎ捨てたばかりのシャツに手を伸ばす。その姿を見て、魔法使いはまるで幼子を諭すように言った。

「・・・今から着るのは、ナシ」

その言葉に、ショルカは叱られた子供のような顔をする。

「こんなことで、すねなくても。次は、脱がせ合えばいいだろ」

「・・・次、か。そうだな。次は必ず脱がしてもらおう」

一瞬で機嫌を直した王を、フィレーヒアは眩しそうに見つめた。

ショルカは美しい華に覆いかぶさると、その首筋に唇を添わせた。こいつ、さっきから真似ばっかりだ。照れながら、噛まれる覚悟をした。しかし、その唇は歯を立てずに、優しくむだけだ。

白い肌が、火照り始める。ショルカは身を起こすと、フィレーヒアのガウンをはだけさせた。発光しているかのような、白皙の肌が露わになる。その胸元に手を伸ばし、薄い桃色の突起に触れた。

「・・・あっ、やめ」

刺激に、しなやかな体が跳ねた。軽く挟むようにされて、声が漏れる。片方だけへの刺激でこれだけの反応を見せるものを、王は残りの一つにも指先を伸ばした。

「それは・・・んっ、あぁっ」

敏感な尖りを二つ同時にこねられて、熱を帯びた体から力が抜けていく。ショルカは、その片方へ顔を寄せると口に含んだ。ざらついた舌が、完全に勃ちあがったそれをなぞる。一つは指先でつままれ、一つは舌で弄ばれ、込み上げる快感にフィレーヒアは身を捩ろうとした。しかし彼に跨る逞しい王の体の重みが、それを許さない。

「あぁ、もう・・・そこはいいっ、もういいからっ・・・」

甘い刺激から逃げることを許されず、懇願するような声を上げる。それが聞こえているはずなのに、王は蕾を啄み続けた。フィレーヒアの体が仰け反り、細い指先が縋るようにシーツを握る。

ショルカの片方の手が、彫刻のような彼の細い顎を掴んだ。蕾から離れた唇が、色素の薄い小さな唇に重なる。

ねじ込む様に舌を入れたのは、フィレーヒアが先だった。理性が消えていくのを感じながら、細い腕で王の肩にしがみつく。二人は貪り合うように、互いの舌を絡め合った。

生まれて初めての深いキスに、呼吸の仕方が分からなかったショルカが、こらえきれずに酸素を求めて唇を離す。大きく肩で息をして、ベッドへ倒れ込んだ。横向きに寝そべる彼に向かい合うように、美しい魔法使いは王に寄り添って寝転んだ。

ショルカが、愛しい華の美しい瞳をじっと見つめる。フィレーヒアの不思議な色の双眸の中に、自分がいるのが見える。居場所だ、と王は思う。これを、ずっと探し続けていた。絢爛な城の片隅で、自らの場違いさに泣きながら、ずっと。

いつもより火照った頬をしたフィレーヒアが、ショルカに笑みを見せた。この世界で最も美しい景色だ。

「なんか、お前が綺麗すぎて、萎えそうだ」

ムードのない発言に、フィレーヒアは声を上げて笑った。そして、満足げな表情で自分を見つめる愛する人に、挑発的な口調で言う。

「萎えちゃ困る」

彼の細い指先が、ショルカの肩をなぞる。逞しい胸を通り、下腹部へ降りていく。臍の周りで焦らすように遊んだ後、黒々とした濃い茂みの更に先へすすんだ。

「っ、う・・・」

ショルカが切なげに呻き声を漏らす。フィレーヒアの指先はぎりぎりのところで留まり、欲望を直に触れてくれない。じれったい、そう思いながら汗ばんだ内腿を震わせる。

それへの直接の刺激は無くとも、茂みやその周辺をしきりに弄ぶ指先のために、ショルカの性器は硬く勃ち上がる。フィレーヒアは、いたずらな色を瞳に浮かべながら、上半身を起こす。焦がれてびくびくと震えているそれを、見下ろした。

「あぁ、限界、だ・・・」

緩すぎる速度でじわじわと襲う、身を少しずつ焼かれるような快感に、ショルカが喘ぐ。目尻にたまった涙が、瞬きした瞬間に流れ落ちた。

「頼む、自分でっ、触るから・・・」

「だめだ。我慢して」

顔を寄せ、王の鼻先に口づける。それだけの触れ合いでわかるほど、ショルカの顔は火のように熱を帯びていた。甘い吐息を耳朶に吹きかけると、フィレーヒアは指の腹で王の黒々とした茂みを撫でた。そしてはち切れそうな欲望を避け、そのふもとにある二つの玉を交互につつく。その刺激が、ほんのわずかに陰茎に伝わり、ショルカが悲鳴にも似た声をあげた。

「っ、あぁっ、もう、無理・・・」

快楽に責め立てられながら、ショルカがフィレーヒアを見つめる。欲望に支配されたときでさえ、清廉な王の双眸が少しも穢れないのは何故なのだろうと、美しい華は考えた。

長い時間をかけて、白く細い指先が、やっとショルカの陰茎にたどりつく。鈴口の雫をぬぐった後で、緩い力で握りこまれた。そのまま上下に扱かれて、ぬぐったばかりの先端が再び湿る。

王は荒い呼吸を整えようと、何度も息を吐いた。しかし欲望を愛撫するフィレーヒアの手が、少しずつ力を強めていくから、体が強張り呼吸が楽になることは無い。

腹の奥からどろどろしたものがせりあがってくる感覚に、ショルカはかたく目を閉じる。限界まで膨らんだ快感がはじける寸前、声を上げた。

「手、離せ・・・っ」

フィレーヒアは手を離さなかった。急に眩しい場所に連れ出されたように、視界が白く染まる。大きく身を震わせながら、夥しい量の熱いものを吐き出した。

射精の余韻に支配されながら、ショルカはまだ蕩けている体を捩り、仰向けになった。不意に、可憐な手にかかった白濁を舐めようとするフィレーヒアが目に入る。

「・・・やめろ、汚いから」

かすれた声でそう言ったのに、白濁はその小さな口に含まれた。そしてゆっくりと嚥下される。

ショルカはその一連の流れをただ眺めることしか出来ずにいた。フィレーヒアはまだ力の入らない王の前で、自らの秘所を見せつけるように足を開いた。

この世に生きるものが思い描く美のなかで、間違いなく最上の人形ひとがたが、自分の目の前で全てを晒していた。胸の突起と同じ薄桃色をした陰茎が、薄い茂みの中で欲望の形に勃ち上がっている。その下の小さな孔を、フィレーヒアは自らの指でなぞった。

「・・・触って」

淫靡な華が、細い声でねだる。理性や、正気や、と呼ばれるものが、崩れ落ちた。

力が入らなかったはずの体を、湧き上がる欲望が突き動かす。王は、のしかかるようにフィレーヒアを押し倒した。

シーツに華奢な肢体を縫い付けるように、押さえつけてキスをする。まるで食らいつくような激しい口づけだ。ショルカの舌が、フィレーヒアの唇から首筋へ移動し、桃色の突起を吸う。すぐに芯をもつそれを嬲るのもそこそこに、舌は薄い腹を経て、薄い茂みを暴いた。可憐な花と同じ色をした性器を、口に含む。既に蜜を滲ませていた先端を吸い、しゃぶり上げた。

「・・・っ、ひ、ああっ」

あまりに性急な愛撫に、フィレーヒアが喘ぐ声は裏返っていた。

「別に・・・舐めなくてもっ、いい、のにっ・・・うああっ」

ほとんど悲鳴だ。しかし悲痛な叫びを聞いても、彼を暴くのを止められない。

薄い腹に付きそうなほど反り返ったそれから、口を離す。そして、舌は会陰を渡り、ついに後孔へ差し込まれた。

孔を縁どるひだは性器よりも色が濃く、妖艶な赤だ。舌先で内側を暴き、襞を嬲り、それを繰り返した。

「だめだ、ああ、んっ・・・」

甘く溶けたフィレーヒアの声。駄目だなんて、思っていない。ショルカにもそのくらいは理解できた。

先ほど射精したばかりだというのに、ショルカの性器は痛い程硬く張り詰めている。華が嬌声を上げるたび、ただですら崩れている理性が、さらに欠片さえ砕かれていく。王は身を起こすと、すっかり解けた孔に、猛ったそれの先端を当てた。

「・・・ああ、ショルカ・・・っ」

これから貫かれることを悟ったフィレーヒアが、喘ぐ声を揺らして愛しい名を呼ぶ。これまでの人生で感じたことのない大きな欲望が、ショルカから余裕を奪いとる。

太く雄々しい性器が、美しい華の内部へ、その奥へ、押し入って行く。

「んっ、ああん、ひっ・・・・」

濡れた声が鼓膜に響く。壊れてしまいそうな腰を掴み、欲望を最奥までねじこむと激しく打ち付けた。何よりも美しい瞳が、本当にこぼれてしまいそうなほど見開かれる。

「はっ・・・、あああっ」

フィレーヒアはあまりの衝撃に、悲鳴さえも上げられない。漏れた声は、ほとんど吐息だった。

ショルカが愛しい華の最奥に精を放ったのは、フィレーヒアが自らの白濁で腹を汚したのと同時だった。


絶頂を終えた陰茎が、柔らかな後孔から抜ける。天井を仰いで横たわるフィレーヒアのすぐ隣へ倒れ込み、ショルカは自らの体を横たえた。

崩落の華。彼がそう呼ばれる所以のもう一つを、王は知る。

彼は、理性を崩し男を落とす淫靡な華だ。

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