第14話

大切な思い出のソファの上で寄り添うように、二人はいつの間にか眠り込んでしまっていた。差し込む朝の光にくすぐられ、先に目を覚ましたのはショルカだった。壁時計を見上げ、それが示す時刻に慌てる。隣で眠っているアムアを起こそうと、その肩へ手を伸ばす。しかし涙の跡を残す頬が目に入り、触れるのに躊躇した。

王がためらっていた数秒の間に、アムアは自ら目を開けた。先ほどショルカがしたのと同じように壁時計を見上げると、焦りの色を浮かべて立ち上がる。

「部屋に戻ります。昨日は、突然すみませんでした」

アムアはそう言い、早足でドアの方へ向かっていく。その背中を見て、ショルカは呟いた。

「・・・なんか、いつものアムアって感じだ」

「私にだって、不安な気持ちになることくらいありますよ。嫌な思いばかりが巡って、居ても立ってもいられなくなることが。なんか、泣いたらすっきりしました」

王に背を向けたまま、側近は素っ気なく言った。そしてドアのハンドルに手をかけ、言葉を続ける。

「・・・夜のことは、忘れてください」

「どうしようかな」

からかうような返事をしたショルカの方を振り向き、全く威圧感のない一睨みをして、アムアは部屋を出る。

ドアを閉め、廊下に出て驚く。フィレーヒアが、こちらの方へ歩いてくるのが見えた。廊下の窓から外の景色を眺めながらゆっくりと歩いて来た魔法使いは、人影を認めていぶかしげな顔をした。随分朝早いお出ましじゃないかと、アムアは思う。

王の部屋の前に立っている人間がアムアだと、美しい彼が気づいたのは、だいぶ距離が縮まってからだった。彼は立ち止まり、アムアの赤い目と、ガウンのはだけた胸元をじっと見る。

昨日の夕食の時に元気がなかった王を気にして一晩中心配していたのに。フィレーヒアは、俯いて踵を返す。足早に去っていく華奢な後ろ姿を見ながら、アムアは思った。もしや、とんでもない勘違いをさせたのではないか―――。



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