第44話 仇
ロディネとレオナルドが
「法や倫理を、とうとう棄ててしまったんだと思う。どいつもこいつも妙な能力持ちで、ビアンカさんがやられた。恐らくは神経毒――」
「僕は回復した人とまた戻ります。ネロがほぼ野生化していた。早く戻って止めないと……!」
随分と興奮して慌てた様子のコニィとコルノの声が聴こえる。
ビアンカがやられた? ネロが野生化?
ロディネは野戦病院さながらの小塔の一室にいるコニィ達の元へ走る。そこには白い顔を更に白くしてベッドに横たわるビアンカと、疲労困憊といった様子のコニィ、話しながら公安の子の導きをしているコルノがいた。
「――ビアンカ!? コニィ、ビアンカのこの状態は……それにネロが野生化ってどういう事だ」
「ロディネ!? 何でロディネがいるんだ!」
「コニィ! どういう事だよ!?」
ロディネに詰め寄られたコニィが驚きロディネを見て、レオナルドの姿を見て、そのまま静かに睨む。戦闘中はともかく、普段は温厚なコニィがかなりの鋭さでレオナルドを睨んで溜息を吐き、ビアンカが「敵の番人の毒にやられた」と言った。絆を結んだ相手が重症という事で、気も立っているようだ。
「僕の見立てでは、まだネロは完全な野生化には至ってない。ビアンカさんの負傷を見て暴走したので、ジーナさんや他の人間に対して攻撃してもおかしくはなかったけれど、きちんと敵だけを狙って、僕達を逃がす事に注力してくれていた」
「そうだとしても、
野生化からの
「――邪魔するんじゃねぇよ」
「ロディネさん、落ち着いて。僕がこの小塔に戻る前に導いたので、ネロはある程度は回復してます。僕がまた戦いに戻りますので、ロディネさんはどうかここで」
「お前は小塔待機という条件で許可されてここにいるんだろうが。勝手な事をするな」
「もう一度言うが、邪魔をするな。離せ」
「ろでぃ……」
「ビアンカ!」「ビアンカさん!」
行くなという言葉を聞く気はないが、重量級と軽重量級に掴まれては振り払えない。さてどうやって抜けようかと考えているうちに、ビアンカが目を覚ました。顔色は悪いが、なんとか大丈夫そうには見える。
「来ちゃ駄目って、言ったのに……」
ビアンカは力なく詰り、レオナルドを睨んで溜息を吐く。その動作はコニィと全く同じだった。
「……連れて来てしまった上に、ネロが絡むなら止めたって無駄。あのときは行っちゃ駄目、と思ったけど、今は、行かなきゃ駄目、な気もするし……」
その通り。よく分かっている。
「気を、つけて。相手の狙いは何でかロディ」
「あの
「あいつもそうだけど……変な、キモい、蛇の番人がいて、何でかレオナルドとロディに固執してる。私やネロを狙っていたのもそいつ」
「蛇?」
そんなのいたっけ……? ただロディネが知らなくてもレオナルドは有名だし、向こうが一方的に知っている場合もある。
「必要以上の喧嘩は買わないで。無理はしないで。どうか、どうか無事で」
「大丈夫。みんなには悪いけど、ネロを助けさえしたら、俺は退くから」
「それは当たり前。本来ならロディはここにいないはずなんだから。……レオナルド、ロディはもちろん、
「いや、そもそも……」
「ロディネさんがネロの方に行くなら僕はこちらを手伝ってから合流します。ご武運を……!」
ロディネが行くのを止めようとするレオナルドだが、元々ロディネを来させるなと言ったのはビアンカの勘だ。その本人が行ってもいいと言っている。この現場での権限はビアンカの方が強い。
「来ないなら置いてくぞ」
言い捨てて小塔を出れば、レオナルドは慌てて追いかけて来る。最初から来いよ馬鹿と心の中で悪態をつきながらロディネは無言で山道を急いだ。戦いの音はまだ聞こえない。そうだ、1つ確認しておかなければ。
「そういえばお前、ビアンカが言ってた蛇の番人って心当たりあるのか?」
ロディネのその問いにレオナルドは答えない……かと思いきや何かを迷っている様子だ。思い出しているのかよく分からないが。
「もうすぐ戦いの場に着いちゃうだろ。早く。あるかないかの二択だろうが」
「……ある」
「あるんなら即答してくれ。また、俺がお前のパートナーだって勘違いしてるパターンか? ま、そっちはお前に任せ「ロディ」
レオナルドが急に立ち止まる。ロディネは止まり切れずにレオナルドの大きな背中に思いっきり激突した。普通の道でもこれは危ないのに、山道でしかも急いでる時にやるなよ危ねぇなと、鼻をしこたま打ったロディネは舌打ちした。
「あのチビを助けたらすぐに退け。絶対だ」
「だから最初からそうするって言ってるだろ?」
「分かってるなら、いい」
「何なんだよ」
レオナルドはまた無言に戻り、山道を進み始める。本当に何なんだ。
程なくして漂う戦いの音や匂い――ほんのり血と硫黄のような臭いが漂う中、いつもの変態とアマリアや特務含む何人かがやりあっていて、その少し手前でネロが戦っている。ネロは野生化までは至らないものの、吠えたり唸ったりしながら戦い、何人かの番人を相手取っている。
確かにその中に1人、能力レベルの違う、緑色の蛇みたいな気色の悪い番人がいるが、ロディネに見覚えはない。どちらかというと、初めて戦いの場で見るネロの方に目がいった。
「つよ……」
ネロはロディネが想像していたより、かなり強い。実戦に強いタイプだ。だけどビアンカ達が退く前からこの状態だったのなら、もうとっくに限界は超えている。止めなくては。
「――――ネロっ!!」
「"金獅子"……"飛燕"……!」
ロディネの呼び声に反応したのは、ネロだけではなく、蛇の番人もだった。ネロは不味いといった風に、相手の蛇は嬉しそうに、2人は対照的な驚きの反応を見せる。
「これで役者は揃った……! 飛燕の目の前でお前を倒して捕まえればいいというわけだ……!」
……本当に誰だ?
元の姿を見てないから何とも言えないが、少なくともロディネは蛇の番人に見覚えはない。
「私はあの男のせいで、こんな姿になったのだ! その原因となった飛燕、
「っちょ! 黒妖犬もだけど飛燕ちゃん
見えているのか見えていないのかよく分からない硝子玉のような目を、輝かせるように血走らせる蛇の男に、ぎょっと慌てるように止める鳶の男。
飛燕ちゃん
金獅子の目の前で
ああ。なるほどね。
「……そこの蛇、あいつ……あの時、先生にやられた奴か。で、あいつが先生を殺したのか」
「ロディ、お前……知っていたのか」
「知らねぇよ。でも先生が戦ってた様子や前後の事はぼんやりとは覚えてるし、お前とあいつらの言動組み合わせたらそれしかないだろうが……レオナルド、お前は一体、何をいくつ俺に隠してる」
あの念押しはロディネが怒りで我を失わないようにという戒めか。
命まで奪わなかった先生の優しさが今、皮肉な事に仇になってる、と。確かにあんな糞野郎はロディネの手でどうにかしてやりたいとは思わなくもない。だが。
「見くびられたもんだ。確かに先生の仇は取りたいとは思うがな。俺はこんな性格でも導き手だよ。助け導く"導き手"。それが1番大事なこと。先生からはそう、教わってきてるんだよ」
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