第五話 栄達
リキがこの国に来た四年ほど前の事――。
コロナス王都スクーディの西にある森で、リキはアンジェラと出会った。何故か、この世界に流れ着いたリキを、アンジェラは城に連れ帰ったのだ。城に戻るとアンジェラ付きの侍女だったクレアが帰りを待っていた。
侍女ではあったが、クレアはアンジェラと姉妹も同然に育てられた関係であり、アンジェラの命を受けてクレアは、右も左もわからぬリキを、あれやこれやと世話をすることになったのである。
三人の交友はそれから始まった。
その当時、コロナスのある貴族が隣国のロランドと結び、ロランドの侵攻を手引きした。時のコロナス国王ヘレスは病で臥せっており、代理の大将として、アンジェラの兄のアレッサンドロが迎撃軍を率いたが、彼はこれが初陣であった。実戦経験のなかったアレッサンドロは敵軍の陽動に乗って討ち死にした。嫡子を失った父王ヘレスは気落ちしたのか、間もなく病死。
止む無く、代わって指揮を執ることになったアンジェラをリキが補佐し、ロランドの侵攻を阻止することに成功した。リキたちは、コロナスにとって危急存亡の
しかし、残された子らで年長のアンジェラが王位を継承する運びとなったものの、若い女性のアンジェラに貴族――主に大貴族――の大半が反発する気配を見せた。女では貴族たちを纏められない――と考えたアンジェラは、外向きには〝アンジェロ〟王としてコロナスを統治することにした。
その折り、リキはアンジェラに、自分を信じてくれる限り、アンジェラの〝力になる〟と誓ったのだ。
「そうだ、リキ。さっきは言い忘れたが、今回の謀叛討伐の功績で〝子爵〟への昇格を決めたぞ」
「子爵?」
「そうだ。それに伴い、領地も増える」
「領地も?」
「ああ。これで、もう少し兵を増やすことも出来るだろ?」
今回の討伐軍は二千の兵を出したが、王国軍から千五百が貸し与えられ、リキの自前の兵は五百人しかいなかったのだ。これでは、アンジェラの腹心として働くには心許ない。
「それはそうだが……何かありそうなのか?」
リキに問われたアンジェラは、少し憂いた顔で頷いた。
「うむ。またしても身内の権力争いだがな。叔父のガレアッツォ侯だ。昔から父の治世に不満であったようだが、最近はあからさまに私への不平を口にし、他の貴族を煽っては焚き付けておる」
「それだけでは……」
リキは当惑したように言った。それだけで討伐というのは、無法ではないのか?
「それだけなら勧告するだけでよい。が、叔父上は他国と結んでいる」
「ロランドか?」
「あそこは、余程コロナスが欲しいらしい」
まったく、懲りん国だ――と、アンジェラは呆れ顔で溜息を吐いた。そこで――と、アンジェラは言葉を継いで、
「威圧のために軍を派遣する。国王軍として六千。リキにはその内の千騎を出してもらいたい」
「千騎って……。それだけの兵を賄える領地なのか?」
「ああ。それだけ出せれば、全軍の指揮も任せられる。これで功績を上げれば、さらに上位の官位や爵位にも昇格させられる」
「いつだ?」
「半年後を予定している。叔父上には、それとなく軍の派遣を匂わせる。それで叔父上が態度を改めるなら、それもよし。変わらないならば、止む無し――だ」
アンジェラは、それで駄目なら仕方がない、と言う。
「なら、いいが……。国内が治まらんと、ロランド以外の他国も煩いしな」
リキも思案顔で頷いた。コロナスには肥沃な土地があり、海にも面しており、交易に向いていた。他国からすれば、魅力的な国だった。
「そういうことだ。詔勅は来週にも出すよ」
「分かった。しかし、あまり露骨に
「分かっているが、参謀として、私の傍にいても不自然でない程度の勢力は持ってもらわんとな」
「それも承知してるがな……。まあ、いい
「分かった」
リキとしては、これ以上目立つのは得策でない――との思いがあった。
「話はこんなものかな?」
「こんなものだな。何だ、そんなに私との話を切り上げたいのか?」
と、アンジェラはまたしても拗ねたように、不満を述べた。もちろん、本心からではない。リキもそれが分かっているから、
「そういや、こんなにゆっくり話をするのは久し振りだな」
と、言い、 アンジェラも、
「そうだろう? だから、私の知らない色々なことを聞かせろ」
とそう言って、リキの話を促した。リキは頷き、
「分かった。昨日、こんなことがあったんだがな……」
と、陽菜と出会った時のことをぽつりぽつりと語り出した。
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