第三話 ひと時の安らぎ

 

 翌朝、コロナスの王都スクーディに戻ったリキたちは、城下町を抜けてスクーディ城に入った。城門を潜り、広場で一行は馬を降りると、馬丁ばていたちが馬を引き連れて行った。


「俺は陛下に討伐の報告に行く。クレアは陽菜を館に連れて行って、休ませてやってくれ」

「はい」

「あとは食事と……服だな。頼む」


と、リキは陽菜のことをクレアに頼み、


「陽菜。俺の館にはクレアが案内してくれる。着いたら、服を着替えて食事をして、ゆっくり休めばいい」

「はい。ありがとうございます」

「俺も報告が終われば戻る。まだ不安だろうし、聞きたいこともあるだろうが、それまで待っていてくれ」

「はい」

「ん。それじゃあ、後でな。クレア、よろしく頼む」

「はい。かしこまりました」


 二人に手を振って、リキはその場を離れた。リキが王宮の門を潜るまで見届けた後、クレアが陽菜に、


「それでは、陽菜様。こちらです」


と、声を掛けた。


「あ、はい」


と、陽菜も素直にクレアの後について行った。二十人ほどの騎士もこれに続いた。彼らはリキ直属の騎士たちなのだろう。

 やがて、クレアは王宮から少し離れた所に建つリキの館まで陽菜を案内した。館は陽菜が想像していたよりも大きかった。クレアがドアノッカーの金具を掴み、コンコン、コンコンと音を響かせた。少しの間があり、重厚な扉が開いて、彼らを迎え入れた。


「こちらへどうぞ」


と、クレアは陽菜を客間の一室へ案内し、


「服を何着かご用意致しました。お好みの物をお召しになってください。脱がれた物はこの籠にお入れください。洗濯は致しますが、何分なにぶん血痕ですので、洗って落ちればよろしいのですが……」

「あ、はい。ありがとうございます」

「着替えが終わりましたら、お食事が用意出来ておりますので」

「はい。ありがとうございます」

「こちらでも、食堂でもお召し上がり頂けます。リキ様がお帰りになられましたらお知らせ致しますので、それまではごゆるりと」

「はい。何から何まで……」

「では、失礼します」


 テキパキと手配をしてくれるクレアに礼を言い、陽菜は着替えをした。食事はこの部屋で摂り、それらが片付けられると、ベッドに横になった。温かな寝具の感触に、陽菜は睡魔に襲われた。緊張の連続から、ようやく解放されたためであった。

 陽菜は瞬く間に、深い眠りに落ちていった。


「陽菜様。リキ様がお帰りになられました」

「陽菜様。お目覚めですか?」


 陽菜が目覚めたのは、眠りについてから二時間後であったが、深く眠っていた陽菜には、どれほど経ったのか判然としなかった。しかし、部屋の外から何度も自分を呼ぶクレアの声で、ようやく陽菜は目が覚めたのだった。それでも、よく眠っていた自覚だけはあった。


「……ん。あ……、クレアさん?」

「はい。只今、リキ様がお戻りになられました」

「あ、はい。すぐ行きます」


 陽菜は慌ててベッドを降り、扉へと向かった。髪が寝ぐせで乱れていないか気になったが、これ以上クレアを待たせるのも悪い。部屋の外では普段着に着替えたクレアが待っていた。


「よろしいでしょうか。リキ様が居間の方でお待ちです」

「はい。お待たせしました」

「では、こちらです」


 クレアが先導して、二人は居間へと向かった。



 

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