第19話 幕間小話:星ノ瀬愛理の独白


「ふぅ……」


 私――星ノ瀬愛理は、夜の自宅で一息ついていた。


 二年生になってから始めた一人暮らしにも少しは慣れたけれど……の夜の静寂の中に実を置く間隔は、未だに少し寂しく感じてしまう。


(……やっぱり、一人に戻ると部屋が広く感じちゃうかも)


 ふと、先程までこの部屋で一緒に夕食を食べたクラスメイトのことを――お互いへの協力を約束した男子、久我錬士君のことを思い浮かべる。

 

(久我君にはたくさん働かせちゃったわね。まさか夕飯まで作ってもらうことになるなんて……」


 彼には本当にお世話になっている。

 特に先日の火事の件は、何度お礼を言っても足りない。

 あの時彼がいなければ、大家さんにどやされるなんて可愛いレベルじゃすまなかっただろう。


(ふふ、笑ったら悪いけど、あの後の久我君の緊張っぷりは面白かったわね)


 本人曰くあの時は緊急事態の直後だったので、女子緊張症は大分薄まった状態だったらしい。

 それでも首筋にうっすらと汗はかいていたし、ところどころ声が上ずったりして、まるで面接をしているみたいな感じだった。


 気にしている本人には悪いけど、あんまりにもピュアすぎてちょっと笑ってしまう。なんとも微笑ましくて、可愛いとさえ思える。


(私のプライベートでのダメダメさも全面的にバレちゃったけど……)


 とても恥ずかしいことだけど、それが私にとってはある種の安心になっているのも事実だった。


 恋愛ランキング一位である私は、学校では色々ある。

 少なくとも、考えなくただ自分らしく振る舞うことは抑制されている。


 だからこそ、ドジでちょっと子どもっぽい自分を曝け出せる相手というのは貴重だった。彼はとても信用できるし、話していると気が休まる。


(だからこそ、お互いの利益のために協力関係を提案できたのよね)


 あの火事の日に感じた、彼の生真面目で善良な人柄。

 それを見込んだからこその協力提案だったのだけど、それは間違っていなかったと確信できる。


(ただ、ちょっと予想外なのは成長力ね……。ちょっと恋愛レッスンしただけで小岩井さんから『いいね』を勝ち取るなんて思わなかったわ)


 いわゆるギャル系である小岩井さんは、他人との距離間が近い人だけど、思ったことをバシバシとはっきりと言う人でもある。


 女子緊張症を抱えて挑むにはちょっとハードルが高いかと思ったけど、久我君はそれを一発で成し遂げてみせた。


(元々ポテンシャルはあったけど、この分だとFランク帯を脱出するのは十分可能かもね。なにより、本人が真面目でひたむきだから)

 

 恋愛はとても綺麗で眩しいものだと捉えていて、だから無垢に憧れている。

 だからこそ、その焦がれた目標への意欲が凄い。


(私もそうだったわね……) 


 中学でコイカツアプリが導入されるまで、私も同じように恋愛に憧れていた。

 少女漫画に出てくるようなキラキラした甘い恋を、ごく純粋に夢見ていた。


 彼氏ができたらどうしようとか、付き合うってどんな感じなんだろうとか、そんなことばかりをドキドキしながら考えていて――


「……頑張ってね久我君」


 恋のスタートラインに立つために走り出した彼に、私はエールを送った。

 ああいう純粋な男の子には……憧れのままに素敵な恋をして欲しいと、心からそう思う。

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