第12話 幕間小話:ド真面目な反復練習
最初の恋愛レッスンが終わったその日の夜。
自宅で夕食を済ませた後、俺は勉強机の椅子にもたれかかっていた。
「ふう、流石に疲れたな……」
今日はいつもとはまったく違う一日になると覚悟はしていたが……あそこまで濃厚な時間を過ごすことになるとは予想外だった。
そう、あんな近い距離で……俺は星ノ瀬さんを食い入るように見つめ続けて……。
(~~~~っ!)
レッスンの最中はただ必死だったが、こうして自宅で冷静に思い出すと男心が熱暴走して頭が爆発しそうになる。
あの時間はなんだか胸が熱くて甘くて……ずっといい匂いで満ちていた。
こうして思い返しても、本気で夢だったんじゃないかと思えてしまう。
(ああもう、いつまで赤面大会してるんだ俺は! それよかすることがあるだろ!)
俺は気を取り直して、学習机に広げたノートへ向き合う作業を再開する。
これは別に授業の予習をしている訳ではなく、星ノ瀬レッスンの記録用である。
「『会話は質問でラリーする』『ちゃんと相手の目を見て話す』『反応を大きくすると相手も話していて楽しくなる』……」
ノートに書き込んでいるのは、星ノ瀬さんが教えてくれたことの他、俺が感じたこともだ。
(今までこういうことから逃げたからな。今さらだけど、こうやってコツコツと一から自分を磨いていくしかない)
今日痛感したのは、俺がいかに男女コミュニケーションに疎いかという事実だ。
だからこそ、教えられたことはちゃんと身につけていきたいのだ。
「『休みの日ってどっか出かけたりしてるのか?』……んー、やっぱちょっと愛想に欠けるな。声もハキハキしてない」
ノートを取るだけではなく、俺は星ノ瀬さんとの会話を思い出しながら自主練習も行っていた。
改善すべき点は山ほどある。
とにかく根底にあるのがビビりなので、相手の言葉に反応するのがワンテンポ遅れるし、無意識に声も小さくなりがちだ。
相手への質問も回答しやすいものとは言えないし、相手と向き合う時の表情だってまだまだ固い。
(はは……まるで面接の練習だな。まあ、似たようなもんだって言えばそうだけど)
異性と自然なコミュニケーションが取れる奴から見れば、こんなせせこましい努力は失笑ものかもしれない。
こんな練習をするなんて、逆に不純だと言う奴もいるかもしれない。
だけど、まあ――
「まあ、俺がやりたいんだから、やるしかないよな」
今まで、ずっと自分のビビりのせいで踏み出せなかった。
だからこそ、俺はこの一歩を大切にしたい。
(結局、ずっと恋愛と女の子を怖がってきたんだよな)
星ノ瀬さんが言う通り……俺の女子緊張症は女子に嫌われる怖さから発生している。
だけどそれは、最初から今みたいに酷かった訳じゃない。
こんなにも悪化してしまったのは、中学時代にあることがあったからだ。
(あれからずっと……恋愛は自分には手に入らないものだって、どこか諦めていたもんな)
今でも憶えている。
教室に木霊する大勢の嘲笑と、情けなさと悔しさで涙を流した時のことを。
あんなことがなければ、俺もここまで恋愛と女子に萎縮するようにはならなかったかもしれない。
(でも、もう一度始めてみようって思えたんだ。もう一度、恋愛ってものを目指して頑張ってみようって)
俺は、誰でもいいから付き合いたい訳じゃない。
俺が心から好きなれる女子と出会い、交際に至るというのが最終目標である。
だが、そこに辿り着くためには女子への免疫のなさや、異性間コミュ能力の欠如といった問題を克服する必要があるのだ。
(恋愛ランキングだって、別に上位ランクになって皆に一目置かれたい訳じゃない。ただ、ある程度のランクにならないとまともに恋活ができないんだよな)
友人の俊郎がそうであるように、Fランクの男子はどの女子に交際申請してもそれが通ることはごく少ない。
それがたとえ、同じFランクの女子であろうともだ。
残念ながら、女子にとってFランク男子とは『恋愛対象外』『相手にしたら自分の価値が下がる』みたいな扱いであり、ここを脱出しないと恋活を始めても話にならない。
だからこそ、今は上に昇るべく努力あるのみ。
来週に訪れる最初の試練を想定し、俺は星ノ瀬さんの教えを思い出しながら復習の夜を過ごしていった。
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