京都と愛
雨野水月
京都と愛
大晦日の夜、私は机の上の赤本をギリギリと睨みつけていた。
分厚い表紙には、でかでかと「京都大学」の文字。
私はこの年の瀬にも関わらず、孤独に受験勉強に邁進しているのであった。
リビングからは、両親と妹の笑い声が聞こえてくる。家族団らんで、たいへん喜ばしいことである。
ふとなんだか、寂しい気持ちに襲われる。
例年は家族みんなでテレビを見ながら年を越すのだが、今年は勉強に集中するため自ら部屋に引きこもった。
しかしまずい、集中が切れかけている──
「こんな時は……!」
私は目をつむって、本棚の最前列から無作為に文庫本を引っ張り出した。
「これは──『宵山万華鏡』!」
私が愛してやまない作家・森見登美彦が書いた大好きな小説だ。もう何回読んだかわからない。
私は赤本の進捗を保留し、緑の文庫本を1ページ目からめくり始めた。
面白い。
京都の妖しい魅力が凝縮されていて、ページをめくる手が止まらない。気付けば最後まで読み終わってしまった。
私は思わず叫ぶ。
「京都、行きてえ~~~!!!」
実を言うと、私の本棚の最前列は森見登美彦の小説しか置かれていない。だから、ランダムに取り出しても必ず森見登美彦に当たるようになっているのだ。
こうして受験勉強に思い詰まった時は、森見登美彦の小説を通じて、京都への愛を再確認しているのである。
中学の時に森見登美彦の小説に出会ってから、私の志望校はずっと変わらずに京都大学。
京都で大学生活を送る若者たちのどこか可笑しくも切ない青春。そして、京都という場所が持つ幻想的な魅力を描く物語たちに、私は完全に魅せられてしまった。
京都で大学生活を送りたい。要するに、京都への愛!
その思いが、私を受験に駆り立てる一番の動力源だ。
「よし──やるか!」
文庫本をぱたと閉じ、私は再び赤本を解き始めた。
京都と愛 雨野水月 @kurage_pancake
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