第19話
でも、なんとなく。
18年生きてきて、もう、少しずつ自分の中でもあったんだと思う。芽生えてはいたのだろうと思う。
独りで浸かる、ぬるま湯みたいな違和感。
浅く腰を下ろした椅子に触れる腿から下の感覚が、冷たくなっていた。
それで、お父さんかお母さんかお姉ちゃんか薫から告げられることを拒んだ口が、哀しいくらい勝手に動き出す。
小学校に入学してから、家族のいないところで他人から言われた言葉の数々は数年で何度か。
一年で一番辛いことに値する声の暴力。
胸の奥の奥を抉ってきた。
先生の声がないと、声の思い出が、声の記憶がないと、生きていられなかった。
「私、うちの子じゃなかった?」
自分がどんな表情をしていたのかはわからない。
ただ。
「奏は、うちの子よ」
お母さんのその厳しい表情と声が、お父さんの考えていることとリンクして心に突き刺さった。
でも、それ。
肯定しているようなものじゃない。
何で嘘吐くの、うちの子じゃないならそう言えばいい、なんて、子ども染みた発言も言えないくらいには恐らくお父さんとお母さんの思い通りに成長していたから、頑張って頑張って頑張って――――絞り出すような声が、「それで?」とだけ。
「血の、繋がりで言ったら」
大黒柱とか亭主関白とか、そういう言葉の似合わない、誰よりもやさしいお父さんが、ぽつりと言葉を降らせた。
「奏の血に、お父さんは無いけど、奏はちゃんと、お母さんの子だよ」
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