19-1(海原学とあい漓と薫)

第10話

「メロンクリームソーダはなぁ、ロマンだ!!」


「なー学、もうその話やめねぇ?28回目よ?」


「む、まだそのくらいだったか」


「いや適当だけど。お前飲む度そうだからな?何なんだよその癖」


「くせ?」




19。


大学の、演劇サークルの飲みの席でのことだ。




「飲んでるー?」



沸騰し続けるように賑わう居酒屋の店内、隣に座った薫の、彼女の愚痴やら惚気やらを聞いていると、その張本人が絡みにやって来た。



「おー」



ややテンションがハイになっている彼氏をも押しのけて僕らの間に割って入り、堂々とスキニーで胡坐を掻く人物があい漓。



後ろで一括りにした髪が彼女の機敏な動きに振り回されてサラサラと揺れる様子を薫と目で追うと、あい漓はにんまりと笑みを浮かべて口を開いた。




「あんね、」




ゆらゆらと揺れているところを見ると、大分酔っているように見える。




「あんねー」




「何だよ早く言えよ」



薫は、さっきまで愚痴含め惚気ていた彼女をずっと想っていて、あまり酔った無防備な姿を友人とはいえ他の男に見せたくないらしい。むっとしている。




「次の春が来るでしょー。そしたらね、弟か妹ができるんだー」



「えっ」



薫が頬杖を離して、驚きと喜びの混ざった感情を表に出す。それに満足したらしいあい漓は視線を僕に振る。



「学も何かいえよー」



「ん、よかったね、おめでとう」



「うへへ、ありがとう~~!」


「うわ」


「ちょお、オイ」



腕を回してくるあい漓に苦笑すると薫の堪えた視線が突き刺さる。


まあまあ、と目だけで返すと薫は手元の酒をぐっと喉の奥へ流し込んで口元を拭った。






一瞬、惚けた頭で結構歳が離れているなとは思ったけど。




全くあり得ないことでもないかと、嬉しそうに笑うあい漓を目にしていたその時は思った。

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