たまゆらの恋愛劇

第1話

「初めまして。…未来さん?」





都内のホテルで催された――お見合いパーティーに参加した、その一席での出来事。





初対面の男性たちが横に並んで着席している女性の前をローテーション。席について開始の合図を聞いたら5分間のお喋り。これを繰り返して、彼は確か、4人目の男だった。




左胸に貼ることを義務づけられたシールタイプの名札には数字も記されていて、私は4番。


席についた20番の彼は私の名札を音読。




ミク、と。




そう。ミライじゃない、ミク。一発で当てたのは今日彼が初めてだった。



因みにさっきの3人目の人は「いえ、ミライではなくミクです」と訂正した時点で「あ、そうなんですか、そうですよね、すみません…」と、初っ端からやらかして気まずくなった要注意名前ネタである。



大したことではないけれど、難なく突破した彼は何だか掴みどころのない男性で。


私は彼を窺いつつ名札を見た。




「はい。樫月(カシヅキ)さ――?」



「本当にミクさん?……。羽のない天使じゃなくて?」






おっと?






…ヤッベェ。



イタリア人?




「すごくきれいな黒髪だね。長いのに毛先まで傷んでないし天使の輪っかもあるしで本物の天使かと思った」




もしかしてイタリア語の同時通訳付き?




髪に天使の輪っかがあるってことは頭に輪っかがはまっていて、そういう天使が地上のサロンにはまっていて?あれ、まってもしかして「天使の輪っかがあるね」の意訳は「お前はもうピーッんでいる」??




ヤバイ奴が来たことを察知し咄嗟に浮く腰。だがしかし冷静になれ、とじっとり下ろす。5分どころか合図もされていないこの状況でこのクズの時だけ席を立つことは許されないのだ。がまん、5分だけ我慢だとヒールの爪先に力を込めて浮遊力に抗ってみるが膝はテーブルの下で謎の恐怖に震え始めていた。小鹿のように。




「眸も大きくて、濡れたみたいな黒目ですね。小鹿みたい」




嘘でしょ?





「濡れたら痛くて赤くなってしまいますよ~」



「上手い!」




え、何が?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る