第8話

「明子、あのさ…。カレシとかいるの?」


あれ…。

そういえばいつの間にか、『明子』って、呼び捨てになってる。


「な、ないない!」


「…!」

弘くんはまた笑って、今度は前髪を押さえるようにして顔を隠した。


「あ、そうだこれ」

そうして急に、腕に下げていたビニール袋を持ち上げた。


「あ!お好み焼き?」


「そう、明子ん家の家族の分も。さっき龍くんに会ってさ」


「お兄ちゃんに?あ、お好み焼きありがとう。お金…」

私が言うと同時に、弘くんはぷっと笑った。


「いい。その代わり今食べよ、腹減った」



私はゆっくり頷いて向きを変え、二人並んで座った。


「小さいお祭りだから、確か花火とかはなかったんだよな」

「うん」


若干緊張している私は差し出されたプラスチック容器に入るお好み焼きを受け取る。

もう熱くはなくなっていて、丁度良い暖かさだった。



「いただきま……、へ」


どうぞと言われて割った箸でお好み焼きを挟むと、視線を感じて顔を合わせた弘くんと視線がぶつかる。


弘くんは優しく微笑して「俺にもくれる?」と頬杖をついた。


「も、ちろん」


だって弘くんが買ってきてくれたと、持ったままのそれをどうしようかと思ったとき、不意打ちで。


近付いた弘くんがそれを銜えて、食べてしまった。



「わ、あ」

一気に体温が上がる傍で「ん、美味しい」と、それを見てか、素か、上目遣いで視線を合わせられる。


「!!」



「……」



合わせられた視線に動揺して目を泳がせると、小さく口角を上げた弘くんが更に距離を縮め。



私の唇の横に、キスをした。





「え、弘く、な……」




「俺、明子のことがずっと好きだった」





…え。


今、なにが――…。





呆然とした私の前、はにかむヒーローは。


いつのまにか、パワーアップしてしまったヒーローで。




「ヒーローだって、焦ったりするから」



私には、その言葉の意味を理解する日は来ないでしょう。




弘くん=ヒーロー。


でも本当は、変身が解けたときにだけ見せる顔があるのかも、しれなくて。



「明子?ごめん、嫌だった…?」



「え!?あ、いえ、ちが…っ」







待って。



まだ変身を解くのは止してください。





これ以上は、心臓がもたないのです。














Fin.

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