第6話

「最っ悪…」



会社を出た所で無意識の内に溜め息と一緒に吐き出していた、言葉通り最悪な言葉。



「…」


ちょっと声が大きかったかなと心配になり、鞄の柄を握り直して小さく振り返る。


周囲には様々な部署の残業組同士がちらほら駅への道を急いでいるが、

よかった、誰も私を気にしていない。


寧ろ振り返ったことにより何人かと目が合ってしまって気まずい。



向き直って眉間に皺を寄せ、歯を食い縛って仰ぐ4月の夜空。



そこでまだまだ寒いなと思って何となく息を吐き出してみる。



白い吐息は見えない。



代わりに、勝手にその白い吐息を期待した視界が滲んだ。



ズ、と鼻を鳴らした私は改札への道を急いだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る