第2話

「誕生日?」


「! …違います」


「1月13日だよね、のの香ちゃん。欲しい物考えておいてね」



昼休みの副社長室。ドラマのように入って向かいに副社長の席があり、その左右に設けられた秘書席——秘書見習い・・・の左側の席に着いて可愛げのない、無地の卓上カレンダーをちらちらと気にしていた私に背後からの問い掛け。


違いますと言ったのに。続く言葉は『何か欲しい物ある?』ではなく『欲しい物考えておいてね』。



「何?」


「副社長って」



500%モテますよね。そう思ったけれど口からは「頭の回転が速いですよね。機転が効くというか。端的というか」という言葉が発せられていた。



「めっちゃ褒めてくれる。凛〜聞いた?」


「あー、うん、俺も肉じゃがが良いと思うよ」


「いや聞いてなさすぎるでしょ」


私の向かいの席に着く凛一さんはパソコンの画面から目を離さずキーボードを叩く指を止めず、慣れた様子でパソコンを閉じた。


「行くか」


「あっ私も」


「のの香ちゃんはいいよ、すぐ帰って来るし。メール中断させちゃってごめん」



「いえ」



気付かれていた。メールを作成している途中でカレンダーを気にし始めた事。



凛一さんが椅子の背凭れに掛けていたジャケットを手に取ったのを見てもう一度立ち上がった私は、冷静を装って副社長のコートを取りに行き、ありがとうと気遣いの礼を云う彼に着てもらう。


やってみて思う。こういうのは、着る人より背の高い人間がやった方がきっと着やすい。


でも立場上やらないわけにもいかない。


と、いうのも、副社長なら案じてわざわざ着させてくれているに違いない。



「15時半からの会議までには戻るから。あ、さっきの締切は年末までにしておこうかな」



『さっきの』…。



「“現金”だろ」


凛一さんが副社長を促して、誕生日に欲しい物の話だったと気づく。


「そこは聞いてたんだ」


「流石に目の前がセクハラ現場で知りませんでしたじゃ俺の責任も問われるからな」


「いやしてないしてない」


「……」


「してないから!!」



ここまで期限を設けないとなあなあになる事を副社長は配慮した気がした。



「一週間後、訊くね。いってきます」



「いってらっしゃいませ」

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