第20話

どく、ともう何度目か数えきれなくなった嫌な心音が身体の内側で鳴る。

不思議なもので、何度でも慣れない。

何度見ても、慣れない。



「うん?」


食べる手を止めて話を聞いてくれていた善が私の様子を気にしている。だから早く、次の台詞を言わなきゃ、

言わなきゃ


「その、首」



「首?」



何か付いてる?とピンポイントで触れたから、それさえ触れてほしくなくて焦った。もう、鮮やかでもない、確かな赤茶色の、小さく存在感のある痕。



「あー…」


“何か”に気付いたのだろう。珍しく沈黙を作った後、何気なく「噛まれちゃったのね」と朗らかに笑った。



反して心が波立つ。


痛い。


それでも、ずっと平静を装ってきた筈だ。筈だとしても、確かに善に気付かれないくらいには上手くやってきた。


こういう、勘付いてしまうような場面には出会してきた。


なのに “今”、ああ、どうしようと



自分が自分の嫌いな自分に覆われていくのはもう、限界だったからかもしれない。



どうせ私には敵わないのに、他の同性には自分に触れさせる善を見るのが。



そんな事より・・・・・・、心未ちゃんの続き。

つまり、男嫌いが仕事の足枷になってるって事?


そんなの…


「克服したくて」



言い切った。

私は、善の綺麗な眼にどう映っているだろう。


もうその痕を見ないでいられているだろうか。


強い女性に見えているだろうか。



それで、こうやってずっと、逢った時からずっと、私を考えてくれる善を解放してあげたい。情けないけどそれしか思い浮かばない。それくらいで、男嫌いに時間を割いてきた善に報えるなら。

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