第79話

身体が小刻みに震えている。



…でも。ここでまた言い淀んだら、また妖怪の好きにされてしまう。



それに、嘘じゃない。


本当のことだ。



彼の反応を映すより早く、もう一度。繰り返して続けた。



「私、好きな人がいて…! だからその、好きな人以外とこういうこ「いつから」



強く遮られ、呆気に取られた。




「へ、ぁ……。しょ、小学生の頃から——」




一切、瞬きもしていない。毅然として私を組み敷いたまま。


感情が汲み取れない。



何を思って考えているのだろう、今。




「…誰?」




誰、かなんて、聞いて判る筈ないのに。



そう思ったけれど口にはできなかった。今質問以外のことを口にすれば間違いなく後悔する羽目になるのは私の方だ。




「……ち、」



「ち?」




「“ちーくん”っていう…」





初恋の人の、名前。




目を開けているのも閉じているのも怖くて、睫毛の先が震えていた。



その視界の中で、私のその言葉を聞いて、花山院さんは目を見開く。



「——っ」




どうしてか私はその表情に胸が痛くなった。




「嘘だろ」



「え、う、嘘じゃな…」




「……」




そう小さく視線を残した彼は身体を離して、



部屋を出て行った。




数秒後、



玄関からドアの開閉音が聞こえてきた。



私が動けないでいる間、彼は家を出て行ったようだった。

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