第30話

悲鳴を上げる力もなく、静かに咀嚼することを放棄した私は首に巻かれた奇抜なマフラーだけを毟り取り、えらく険しい眉間だけを残し気を失った。




次に目が覚めた時にはけたたましくお腹が鳴いていた。のそのそと亀の如くキッチンへ向かう。


全私が憧れたカウンターキッチンだ。



奥の冷蔵庫の前、3口IHのひとつに見覚えのない鍋が置いてあることに気がついた。蓋を開けると思わず喉とお腹が鳴いてしまうような、美味しそうなおじやとこんにちは。



て、おじや?




まさか、と思った。



まさか、まさかまさかまさかまさかまさか、そのまさか?


どのまさか?



落ち着く為に再度両手首を目の前に持って来る。


そして、ぐーぱーぐーぱー。手の平をひっくり返したりしてみる。


動いてはいる、が。



両手首共にくっきりはっきりと朱い痕は遺されていた。



左手首の方は噛まれた感じさえあ…おじやと目が合う。




まさか、ねぇ。



一旦うろうろして、キッチンを飛び出してより広いリビングフィールドにてうろうろ。うろうろ。しているとダイニングテーブルの上に、これまた見慣れぬ薬らしきパッケージを見つけてそうっとそうっと、誰も見ていないのに確認して歩み寄った。



「こうのう…ずつう…。解熱、だと…!?」



何かの罠か!?


バッと勢いよく振り返る。


くらくらした。


わなわなと手が震え、一旦その薬を手放した。



頭上に大きな罠でも仕掛けられているのではないかと見上げたがそこにはただただ白く広い天井が昇っているだけだった。



さて、再び。行動はうろうろ、頭の中にはまさかの三文字以外浮かばないままリビングに謎の三角形を描いて歩き続けた。




「おい」

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