第25話

「もっ…、んぅ」


噛み付くように唇を重ねられる。


舌が咥内に入ってきて自分のそれに触れる。涙が浮かぶ視界の先で薄く見える男の瞳の色は、淡い紫のようだった。



指先が下着に掛かり抵抗の力を強める。私は男の唇を噛み、力任せに腕を引いた。


その勢いで爪が頬を引っ掻く。


「ぁ…」


息切れの最中、私を見下ろしていた男の影が濃くなったのが解った。



男は僅かに黙った後静かに頬の傷に触れ、滲んだ血液を掬って口元に持っていく。



「百目鬼さんあげてどうするつもりだった?俺の身体だよな、これ」



「…!」


引っ掻いたことを責められることはなかったがスラックスはストッキングごと下され、露わになる下着。覆い被さり臀部の方から指先を滑り込まされぞく、と腰から這う感覚に悲鳴を溢す喉。


ちがう、


ちがう。


私の身体は私のものだ。



「すぐ啼く、」



そう囁かれた時、何か大切なことが過り、それを逃さぬよう目を見開いた。



「あっぁあれ!?男性が好きって言ってましたよね!!?」



思い出した。時が悪く私の悲鳴の代わりは容赦なく強姦魔の耳元で爆音となった。



「…………犯すぞ」


「今犯されかけてました!!!!」


身体を起こし思い切り不機嫌そうにしている。


「だって…生きていく為に精気が必要で、仕方なく私に何かするなら解ります。よくないし解りたくないのが本音だし、そもそも何故私なのか…ですが私も見殺しにはできません。見殺しって殺すって書きますしいくら他人とはいえ目の前の人が飢え死にする瞬間に立ち会うのはちょっと…。でも貴方は昨日私にあってから何らかの方法で精気を吸い取って、それでお腹いっぱいになって寝ていたじゃないですか!パンツの中に手を入れなくたっていいでしょ!!」



「……………………」


何とか知恵を搾り出し、注意を逸らすよう喋り倒した。男は感情の読めない長めの沈黙で尚も私に圧を掛けている。



一体何を考えているのだろう。



「そうか、そうだった。他の男に尻尾振ったと思って軽率に犯そうとしたけどそもそもおまえ、立ち振る舞いがこう少年?ぽいから男としてカウントしてたわ」



何が『してたわ』だよ!!


男でも勝手にパンツの中に手入れるのはだめだよ!!

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